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アサヒ・インターネット・キャスター



松尾慈子の漫画偏愛主義 December  10, 2004
花園メリーゴーランド
柏木ハルコ  小学館社 全5巻 本体530円〜600円
松尾慈子の顔写真
松尾慈子
1992年朝日新聞入社、金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。
一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。
バックナンバー エド村崎のフィルム・マニアーク


本の表紙
民俗学的見地から性のあり方を描いた大傑作、と私は思う。また、少年の成長記録でもある。どこかの文化人の言葉で「少年期とは、性という怪物に、理性と知識でもって立ち向かうもの」というフレーズがあったように記憶しているが、この作品は、まさに少年の性と理性との戦いのスペクタクル。それに地域の特殊事情が加わって、スリリングな物語に仕上がっている。

主人公の少年・相浦は、田舎の寺に預けられている先祖伝来の剣を取り戻せば、自分の迷いがなくなるような気がする、そんな思いを込めて田舎に向かう。その途中、ある山里に迷い込む。そこでは昔ながらの夜ばい、祭事での自由な性交といった性風俗が残っていた。

巻き込まれていく相浦は、体はその風俗に逆らえず、とはいえ現代社会の規範を捨て去ることもできない。混乱する中で、相沢は現地の少女と仲良くなる。しかし、その少女もその土地の慣習から逃れられない存在であり、結果、相浦は残酷な形で何度も彼女を拒絶する。

最終巻では、窮地に立たされた相浦と村との壮絶な戦いで手に汗握る展開に。最後まで緊張感とスピード感を失わず、これはもう「あっぱれ!」と言うしかない。また、巻末にある民俗学者の解説がまた的確に作品を分析している。作品を読むなら、この解説も必読。

これほどブッ飛んだ設定でありながら、作品がリアルに感じられるのは、作者に豊富な知識の裏付けがあるからだろう。参考文献の多くは、00年に91歳で亡くなった民俗学者・赤松啓介さんの著作とある。

高度成長期の途中ぐらいまで、作品にあるような性風俗は日本各地に残っていたという。ならば、一夫一婦制の現代社会の意味は? 現代女性に植え付けられている「恋愛イコール結婚」のようなロマンチックラブ・イデオロギーはどこへ行くのか? ぐるぐると思考が回ってしまう。

この作品、私は大傑作と書いたが、世間ではあまり知られていないようだ。かくいう私も知人から「あなたが好きそうな漫画がある」と言われて知った。今風ではない、ちょっと泥臭い絵なので、多くの人は手に取るのをためらうのかもしれない。しかし慣れればそれもエロスに思えてくるので、ぜひ皆様手にとって欲しい。そして私と一緒に思考をぐるぐるさせてください。

しかし、このタイトル。あまりに隠喩的で淫靡(いんび)に感じるのは私だけだろうか。性をテーマにした作品を描き続けている柏木ハルコのタイトルセンスに脱帽だ。



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