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アサヒ・インターネット・キャスター



ドナーの重い負担実感
 

妻からの生体肝移植を前に



植竹のイラスト植竹 伸太郎
ウエタケ・シンタロウ

朝日新聞社会部で警視庁記者クラブなどを担当。横浜支局長などを経て総合研究センター主任研究員。日曜版連載「旅する記者50人」で「聖地−−ゴルフの巡礼者たち」を執筆。
「パートナーに恵まれて」 バックナンバー 小飯塚一也の「四坪百姓」


 60歳の定年を1年後に控え、私と妻(54)は重大な決断をした。

 私の肝臓にがんが多発するようになったので、それを切除し、妻の肝臓の一部を移植する手術を受けることにしたのである。妻にドナー(臓器提供者)になってもらえる私は恵まれている。だが、生体肝移植を受ける身になって、この画期的な治療法が、いかに切なく、過酷なものであるかを知らされた。

 私は二十数年前、健康診断で肝機能の異常が見つかり、10年ほど前にC型肝炎と診断された。その後、肝硬変に進み、3年前には肝がんもできた。

 生体肝移植の手術は今週中にも東京都内の大学医学部付属病院で行われる。私は事前検査などのため、すでに入院しており、この原稿は病室のベッドで書いている。妻は手術日の2日前に入院する予定だ。

 私たちが大学病院の移植外科教授を訪ねたのは4月末だった。私の家族は、妻と、いずれも成人した息子2人、娘1人。そういう家族構成などを聞いた後、教授は「まず長男の方から適性検査をしましょう」と言った。

 私は困惑した。

 「子供からもらう気はないんです。できれば、妻から」

 「なぜ?」

 「だって、子供たちは私の子であることを選べなかった。私と妻は自分の意思で三十数年、夫婦をやってきたんです」

 「正論ですな。じゃ、そうしましょう」

 男性の方が女性より肝臓が大きく、ドナーには向いている。受ける側が男性の場合は特に大きい方がいいという事情もある。妻も子供たちも血液型が適合したが、妻を肝臓のドナーとするという選択は、私と妻が何度も話し合った末の結論だった。「いざというときは私のをあげるから」という妻に対し、私も「子供からもらってまで生きようとは思わない」と答えていた。

 それでも実際に移植という選択をしてみると、妻が怖がっていることが、痛いほどわかった。

 肝臓は、切り取って人に与えても再生が可能な唯一の臓器だ。だから生体肝移植は成り立つ。提供を受ける患者のリスクは半年以内の死亡率10〜25%。手術時間は私の場合、20時間に及ぶ。

 それでも、私は「自分の病気を治すのだから」と耐えられる。生体肝移植の過酷な負担を強いられるのはドナーである妻の方だ。

 妻が受けるのは腹部をJ字形に切って肝臓の3分の2を取り出す手術だ。人生で初めての手術がいきなり10時間を超える大手術になる。妻はインターネットなどで情報を集め、「手術後の痛みはすごいらしい」「手術後に胆汁が漏れることもあり、再手術になったらどうしよう」と不安を打ち明けることもあった。

 肝臓内の血管の位置を調べるため、妻は事前に2日間入院した。ベッドに横たわる妻に付き添いながら、私は申し訳なさでいっぱいになった。

 生き死にの境にいる患者に比べると、ドナーは手術前も手術後も置き去りにされがちだ。周囲から「妻だから当然」といわれることもあり、妻は反発を覚えた。私も「ひとにそんなにつらい思いをさせてまで生き延びる意味が、果たしてあるのか」と、自分が浅ましく思えることが、何度もあった。

 見過ごされがちなドナーのつらさを軽減するために、どうしたらいいのか。

 妻は早くも病院内の患者の会の集まりに出て、経験者から助言や励ましを受けている。親身になって相談に乗ってくれるドナー経験者と出会った。包容力のある人で、メールのやりとりもしている。

 肝臓移植には脳死者からの移植もある。臓器移植法が成立して6年たち、脳死肝移植は21件おこなわれた。一方で、生体肝移植は89年に始まって以来、延べ2300件を超える。患者の立場に身を置いて、改めて日本の臓器移植の現実を考えさせられた。

(2003年06月23日 朝日新聞朝刊より)



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