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受験生「萌える」単語集
発売半月余で１０万部突破

2003年12月29日-2004年1月5日合併号
宇留間和基編集長おすすめの記事

｜バックナンバー｜

「灰色の受験生活」がこれからはピンク色に変わるかもしれない。『萌える英単語もえたん』という異色の美少女単語集が発売された。単なるイロモノかと思ったら、社会人にも役立つとの評判だ。
編集部　久保田裕

　もえたん（定価１１４３円）の「萌え」とは、美少女アニメの主人公などにオタク心がときめいてしまった状態などを表すことばだ。ネットなどでは「モー娘、萌え～」などと表記されたりする。
　受験英単語集なのだが、もえたんにはヒロインがいる。虹原いんく、１７歳。表紙では、なぜかランドセルを背負っている。

　いんくは魔法の携帯の力で魔法少女ぱすてるインクに変身し、幼なじみで片思いの受験生ナオくんを助けて受験勉強をさせる。そんな物語が、英単語や例文に交じって、可愛いカラーイラストで展開する。

●シリーズ化望む声も
　ロリコン風美少女のイラストが全編にちりばめられているため、恥ずかしくて外では読めない人もいるだろう。ならば、カバーを裏返しにして掛け直せばいい。白黒のカバーで堅い感じの単語集に早変わりという演出だ。

　もえたんを製作した三才ブックス書籍第２編集部の村中宣彦編集長（３０）は、
「例文の英訳などが大変で、途中で血を吐いたりもしましたが、頑張ったかいはありました」
　と予想以上の人気に気をよくしている。発売前から予約が殺到し、２万７０００部刷った初版は、３日ほどで完売。来年の受験に間に合うようにとすぐに８万部増刷され、１１月下旬の発売以来、半月余で総計１０万部突破となった。ネット書店最大手のアマゾンでも、全書籍売り上げランキングの１位をしばらく占めていた。

　読者の大半は、男子受験生だが、なかには４０代の男性や女子中学生もいるという。萌えのイラスト部分だけでなく、肝心の受験単語集としても「センター試験はこれで十分」、「英検やＴＯＥＩＣにも役立つ」となかなかの評判のようだ。「全教科シリーズで出して欲しい」という声もあり、続編を企画中という。

　萌え系のマンガが好きという群馬県渋川市の男子高校３年生（１８）は、もえたん発売を知り、すぐに１０部のまとめ注文を出した。学校で見せびらかしたところ、受験を目前にした友人らに「これはいい」と瞬く間に持ち去られ、さらに１０部追加注文を出した。

「萌え系に疎かった友人にも、すごく喜んでもらえた。センター試験突破から東大受験を狙っている友人まで、英語を楽しく学ぶ懸け橋となってくれる単語集だ」
　と絶賛する。

　今の受験生にもえたんがこれほど受けたのは、美少女アニメキャラのお陰ばかりではない。英単語を使った用例の題材として、アニメやゲームのせりふなどでおなじみの表現が多用されているという点も大きい。

「彼女は月に代わってお仕置きをする」
「赤い機体は、普通の機体の３倍の性能だ」
「地震が起き、僕らの学校は未来に飛ばされた」
　といった例文は、元ネタが分かる人にとっては、笑って読み進められるよう工夫されている。

●名作より萌え系が先
　オタクや少女文化論に詳しい評論家の唐沢俊一>さんは、
「今の子どもは、はしよりも先にゲーム機の使い方を覚え、世界名作を読む前に、萌え系アニメに目覚めている。そんな彼らにとって大学受験がつらいのは、勉強そのものではなく、勉強している間はオタク的なものから離れねばならないということ。オタク趣味にからめて覚える気を起こさせる英単語集が出れば飛びつくのは当然」
　と解説する。

　村中編集長は、
「自分の受験時代を振り返ると、暗い思い出ばかり。少しでも明るく受験生活を送れるよう、受験生への応援を込めて作った」
　と話す。
　来春は、もえたんを手にした新入生たちが、大学の校門をたくさんくぐることだろう。

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