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アサヒ・インターネット・キャスター



「ニュースDrag」 November  24, 2003

テレビは視聴率か

高成田の顔写真高成田 享
タカナリタ・トオル

経済部記者、ワシントン特派員、アメリカ総局長などを経て、論説委員。
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ことしはテレビ放送が始まって50年だそうで、私は5歳のころからテレビに接したことになる。もっとも自分の家にテレビが来た(「来た」というよりも「いらっしゃった」)のは、しばらくあとのことで、最初のうちは、電気屋の店頭や近くの裕福な家で、見ていた。

のべつ幕なしに見られるわけではない(放送時間も限定されていたし、テレビを持っている家もテレビが傷むのを恐れて特定の時間だけしかスイッチを入れなかった)ので、見る側には明確な「目的意識」があった。そのせいか、テレビの思い出というと、プロボクシングの白井義男とレオ・エスピノザとの世界選手権、吉葉山と若の花の優勝を賭けた勝負、力道山とルー・テーズとの対決といった個々の場面が思い浮かんでくる。

テレビが大好きだったはずなのだが、大学生のころは、テレビよりもおもしろいことがたくさんあったような気がするし、就職してからは仕事に追われて、NHKのニュースのほかテレビはほとんど見なくなった。7年ほど前に、「ニュースステーション」という番組のコメンテーターをやることになったときに、いちばん困ったのは、「Nステについてどう思うか」という質問だった。ほとんど見たことがなかったのだから、答えようがなかったのだ。

このごろ、テレビでも見ようかな、という気分や時間は出てきたのだが、チャンネルを回しても、新聞のテレビ欄を見ても、「よし、この時間帯には、絶対に見るぞ」というような番組を見つけることができない。

もちろん、テレビ番組が悪いのではなく、私がテレビ文化から置いてきぼりにされているせいだと思う。バラエティーという分野になるのだろうか、若いタレントたちがわいわいがやがや遊んだり、しゃべったりしているのは、たぶん世間では面白い番組なのだろう。ただ私はタレントを知らないせいか、まったくおもしろいと感じることができないのだ。

トレンディードラマというのは、続けて見ていれば面白いのだろうと思う。10年余り前、米国に勤務していたときに、家族のだれかが「東京ラブストーリー」の全部が入っているビデオを入手してきたので、週末の2日間、ぶっ続きで見た。文字通り寝食を忘れるくらいに面白かった。

今は、どれがトレンディードラマなのだろうか。昨年、明石家さんまがうらぶれた刑事、木村拓哉が殺人犯というドラマをちょっと見ていたが、さんま刑事がたばこを頻繁に使って、感情表現をしているのを見て、見るのをやめた。(たばこの灰を何度も落とせば、いらだっていることがわかるし、肺の奥まで吸い込んでゆっくり煙をだせば、深刻に悩んでいることはわかるが、たばこがなければ、そんな表現ができない役者の演技をまじめに見ることもあるまい)

この程度のテレビ観しかないせいか、日本テレビの「視聴率操作事件」には笑ってしまった。分別のある大人のやることとは思えなかったが、日本テレビのホームページに掲載されているこの事件の調査報告書を読むと、この業界で、「分別」を保つのは難しいということがわかる。

事件を起こした41歳のプロデューサーの経歴を見ると、「あしたP−KAN気分」「投稿!特ホウ王国」の各ディレクター(D)、「だんトツ!!平成キング」のチーフD、「ウルトラクイズ」のプロデューサー(P)、「世界まる見え!テレビ特捜部」のD、「24時間テレビ」のD、「平成あっぱれテレビ」のD、「びっくり人間スペシャル」のチーフD、「奇跡の生還!芸能人特別版」のP・D、「芸能人凶悪犯罪被害!」のP・D、「生でハッスル挑戦TV」のチーフDなどが並ぶ。番組名しかわからないが、そこからテレビ文化の実態が透けて見えるような気がする。

「視聴率を取れば優秀なD、Pと言われ会社から評価されるので、自分としては『視聴率さえ上げれば何をやってもいい』という感覚があった。また、きれいごとを言わずに視聴率重視を唱える社長の姿勢にも感銘を受けていた」

「視聴率というものについては、以前は調査会社としてニールセンとビデオリサーチの2社があったが、最近はビデオリサーチ1社だけになっていたので、視聴率といってもそんなに神聖なものではなく、しょせんは民間会社1社による調査データに過ぎないと思っていた。制作現場では同僚らと『モニター機械のある家に行ってお願いすれば視聴率は上がるんじゃないか』などと冗談めかして話したこともあり、調査会社に頼んで視聴率調査世帯を探してもらえば20軒くらいはすぐに見つかるだろうし、その世帯に依頼すれば簡単にOKして自分の指定する番組を見てもらえるだろうと考え、本件視聴率工作を思い立った」

「これにより担当番組の視聴率が0.1%しか上がらなかったとしても、14.9%と15.0%では大違いであり、不正工作による結果であったとしても視聴率が上がることはうれしいしいことだった。視聴率を上げることはひいては会社のためにもなると思っていた」

報告書に出てくる本人の供述である。「きれいごとを言わずに視聴率重視を唱える社長の姿勢に感銘を受けた」などと言われたら、まるで視聴率しか頭にない社長のようで、社長にとっては、さぞ迷惑な供述だと思うが、副社長に降格した萩原敏雄社長は「お詫び会見」で、「視聴率が媒体価値を示す唯一の指標であることは否定できない。企業として高視聴率を目指すのを目標に掲げることは間違っていない」と語ったというから、まさにトップも視聴率主義者なのだろう。

しかし、この会社の経営者は、自分たちの企業を成り立たせている放送法を読んだことがないらしい。

「この法律は、以下に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。1、放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。2、放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること。3、放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」

テレビ放送というのは、限られた電波の枠を、「公共の福祉」といった目的のために、放送事業者に与えることで成り立っている。放送という産業で利益を得たい、という目的の人は、そもそも免許が与えられない仕組みになっている。「お金儲けのために医者をやっているので、貧乏人は診療しません」と公然と言って、診療を拒否すれば、その医者は医師法の違反を問われ、資格を失うこともある。それと同じことで、「視聴率が媒体の価値を示す唯一の指標」という発言は、放送法の趣旨に反する暴言なのである。

そんなきれいごとを言っていては生きていけない、というのも事実だろう。しかし、大きな社会的な役割を担っている企業のトップが少なくとも公的な場所で、「きれいごと」を踏み外しては、社会は成り立たない。「視聴率さえよければ中身なんてどうでもいい」という論理は、「カネさえ取れれば、やり方は問わない」というサラ金の論理と変わらない。

そういう基本的な企業倫理がこの会社というか、この業界にはないのだろうか。同じ会見で、日本テレビの氏家斉一郎会長は、「『取締役会に責任がない』という理由は何か」と記者から問われて、「細かく議論すると、法律的に違反しているかどうかになる」「テレビ業界全体の流れの中で起こったという判断で、監視のためにいる社外取締役は、法律違反にならないということだった」と反論。さらに、経営責任について質問されると、「道義的責任はある。感情的議論をしてもしょうがない」などと語ったという。

企業の最高責任者に「法的責任」と「道義的責任」の2つのカテゴリーしかない、というのも上場企業のトップとは思えない考え方だ。繰り返すが、放送という事業者にとって、もっとも重い責任は「社会的な責任」である。国民から電波という貴重な公共財を与えられた放送事業に携わる人間が放送という業務にかかわることで、不正を働いた。しかも、その不正の温床は会社の社長が掲げる方針である「視聴率至上主義」だとすれば、会社のトップが負うべき責任は「法的責任」でも「道義的責任」でもなく、「社会的責任」なのは明白だろう。

しかし、あまり息巻いてもしかたがないのは、こういう人たちが作っている番組を喜んで見ている国民の側に最終的な責任があるからだ。

テレビは、衛星放送やデジタル化の進展で、多チャンネル時代を迎えている。個人の好みにあった番組を選ぶ余地が広げるわけで、デパートよりも専門店という人たちがふえるのと同じように、「万人が喜ぶ」のを狙ったバラエティーのような番組は衰えていくかもしれない。限られた国民の財産を使っているという意識のない人たちに対抗するには、財を広げてしまうのがいちばんだ。



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