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アサヒ・インターネット・キャスター



「ニュースDrag」 November  15, 2004

引き返す勇気

高成田の顔写真高成田 享
タカナリタ・トオル

経済部記者、ワシントン特派員、アメリカ総局長などを経て、論説委員。
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先日、非常に興味深い「勉強会」に出席した。「どうする?核燃サイクル」と題して、シンクタンクの「構想日本」が主催した政策討議で、その司会を私がした。

この問題について取材したことはなく、それこそ新聞記事程度の知識しかないのに司会を引き受けたのは、かねてから気になっていた問題なので、自分と同じような知識の聴衆と同じ視点で勉強ができると思ったからだ。実際、出席した専門家の話を聞きながら、この問題が緊急かつ重要なことだということがよく理解できた。

核燃サイクルとは何か。原子力発電所の使用済み核燃料を再処理して、プルトニウムを抽出し、それを燃料にして、高速増殖炉(FBR)などで燃焼させる。そこから出る使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、再び燃料に使う。この循環型のエネルギー利用のことを核燃サイクルという。プルトニウムを取り出して燃やせば、1粒で何度もおいしいという仕組みだから、かつては夢の技術だといわれ、各国が技術開発に力を入れた。

しかし、FBRが経済的にも割高なうえ、日本の「もんじゅ」をはじめ各国のFBRが実験段階で事故が続出したため、ロシアを除く各国はFBR計画を中断したり、断念したりした。そうした国は、使用済み燃料の再処理をせず、そのまま処分する「直接処分」に方針を変更したが、日本は、抽出したプルトニウムをふつうの原子力発電所で燃やす「プルサーマル計画」で、核燃サイクルを維持することを考えている。

日本の原子力政策を決める政府の原子力委員会に設けられた原子力研究開発利用長期計画(原子力長計)の策定会議で、近くこの方針が定められる予定だという。この策定会議では、直接処分した場合と核燃サイクルにした場合のコストとを計算した。その結果、核燃サイクルは直接処分よりも1.5倍から1.8倍かかることがわかった。

しかし、もし、これまでの進めてきた核燃サイクルを放棄しようとすると、青森県六ケ所村に建設した再処理工場が無駄になるだけではなく、それぞれの原子力発電所に置かれている使用済み核燃料を持ち込む場所がなくなる。そうなると、ゴミの捨て場がなくなった原発は次々に操業停止に追い込まれ、最終的には新しい火力などの発電所を建てるしかなくなる。こうした「政策変更コスト」を計算すると、核燃サイクルを進めたほうがコストが低くてすむ。

これが策定会議の多数派の考えだそうで、策定会議のメンバーでこの勉強会に出席した吉岡斉九州大学教授は、「コストを計算したことは前進だが、政策変更コストは仮定が多すぎるのだから、それなら確率をかけて計算すべきだ」と異論を述べた。同じく出席者の佐藤栄佐久知事は、「原発と再処理は分けて考えるべきだ」と述べ、再処理ができないから原発が操業できなくなるという問題ではないと説明。直接処理を含めた最終処理のやり方が決まれば、原発が停止に追い込まれることはないと述べた。

また、出席者のミヒャエル・ザイラー・ドイツ・エコ研究所副所長は、核燃サイクルはコストが高いことなどから計画を断念、さらに原発そのものについても段階的に縮小し、2022年ごろには全廃するというのがドイツ政府の方針だと説明した。原発の代わりはどうするのかというと、風力やバイオマス発電所など自然エネルギーで補うのだという。

核燃サイクルは、FBRの実現が遠のいた段階で、わざわざコストの高いプルサーマルを使うしか、プルトニウムの使い道がなくなった。プルサーマル計画は電力各社が進めるもので、そのコストは最終的には税金なり電気料なりで払うことになる。意義の少ない計画に国民が多大な負担をするわけで、ある研究者は「沈没するのはわかりながら沖縄戦に向けて出撃、撃沈された戦艦大和と同じようだ」と、この核燃サイクルを評した。

その言葉で思い出したのだが、大蔵省(現財務省)詰めの記者として取材していたときに、「昭和の3大バカ査定」という言葉を何度も聞いた。戦艦大和、本四架橋、青函トンネルの3計画に予算をつけた大蔵省主計局の「反省の弁」だと言っていたが、このごろでは、関西空港も含めて、「4大バカ査定」と言われているとのこと。お金の無駄遣いという点では、FBRなきあとの核燃サイクルもそれに入るのかもしれない。

六ケ所村の再処理工場で本格的な実用試験が始まれば、放射性物質で汚染された部分があるこの施設を簡単には壊せなくなり、それこそ「政策変更コスト」も高くなる。その意味では、引き返すチャンスはいましかないのだろう。勉強会のあと、経済産業省のあるOBにこの問題について尋ねたら、「省内にも六ケ所可動への慎重派がいたが、結局、再処理工場の完成という既成事実に勝てなかった」と説明した。

核燃サイクルをめぐる議論は、さまざまな論点があり、コストがすべてではない。FBRについても、いずれは実用化されるという見方もあり、再処理の技術を放棄する必要はない、という意見もある。

さらに、だれも公式の席では語らないが、日本が核武装する能力があることを示すには、核兵器の原料となるプルトニウムの生産を確保しておきたいという「国家本能」があるという見方もある。

核不拡散は、9・11以降、とくに米国が熱心に追求しているテーマであり、この文脈のなかでは、たしかに核燃サイクルで取り出されるプルトニウムは、原発の燃料という意味合いよりも、核兵器の原料という意味で使われている。

日本は原子力の平和利用しか考えていないから、核燃サイクルによるプルトニウムも平和利用のやり方の問題、というのが、核燃サイクルの慎重派も含めて、多くの研究者の考え方だろうが、国際的にみれば、核兵器を考慮しないでプルトニウムの生産を進めるというのは、通用しない議論かもしれない。

勉強会に1度出席しただけで、結論を出すつもりはないが、コストに見合わない計画だと多くの人が気付きながら、もう間に合わないといった消極的な理由で、計画を進めるのは、将来にさらに大きな負担を残すだけだと思う。「引き返す勇気」が求められているのではないだろうか。



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