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| 「ニュースDrag」 December
13, 2004 |
むがすあったずもな
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岩手県の遠野市で、昔話を聞きながら、柳田国男の『遠野物語』の世界にどっぷりと浸ってきた。
遠野市は「民話の里」というだけあって、遠野駅でも、いろいろな観光施設でも、ホテルでも、昔話を聞く場所が用意されている。私が語り部のおばあちゃんに出会ったのは、遠野市附馬牛町の「遠野ふるさと村」と、同市土渕町の「伝承園」の2施設。ふるさと村では、ここに移築された古い民家の座敷で、こたつに入りながら、伝承園では、同じような古い民家のいろり端で、話を聞いた。
飼っていた馬が好きになって、一緒に暮らすと言い出した娘に驚いたおとうが、馬を殺したら、嘆き悲しんだ娘が馬とともに、天に昇っていった。
川にいた馬を河童が深みに引きずり込もうとしたら、逆に引きずられて馬屋に来てしまった。村人がこの河童をどうするか話し合ったすえ、悪さをしないという約束で放したところ、その後、悪さがなくなった。
家に幸いをもたらすというザシキワラシがある家から去るのを見た人がいた。その後、その一家は、キノコの毒にあたり死に絶えた。
いずれも、『遠野物語』に収められている話だが、「むかずあったずもな」と、語り部が話を始めると、馬っこを好きになった娘も、命乞いする河童も、夕方の道を歩いてくるザシキワラシも生命を与えられたかのように、ほの暗い座敷の空間に浮かぶ想像の舞台を自由に飛び交うようになる。
どこか教訓的で、可笑しくもあり、もの悲しくもある物語の最後は「これでどんとはれ」という言葉で終わる。「もうひとつ」とせびりたくなるのは、子どもと同じだ。
『遠野物語』は、遠野の佐々木喜善という文学者が柳田に語り伝えたもので、佐々木のフィールドワークがなければ、柳田の民俗学を代表する作品は成立しなかった。しかし、そのフィールドワークの土台になったのは、山々に四方を囲まれた遠野という地域の特性だろう。
河童、ザシキワラシ、山男、雪女、天狗……。『遠野物語』に登場するさまざまなイキモノは、人知の及ばない自然の空間がなければ生きてはいけない。山間に暮らす人々の自然への恐れにも似た意識がこうした不思議を「共同幻想」として共有する基盤になっているのだろう。昔話の語り部たちは、私たちがそれを追体験する案内人ということになる。
「山の暮らし」の追体験というと、もうひとつの出来事があった。遠野市附馬牛町の民宿「ミルク・イン江川」で味わったどぶろくだ。構造改革特区のひとつとして、酒税法の規制緩和で、少量の酒でも生産できるようになった「どぶろく特区」の第1号がこの民宿で造られているのだ。
どこの山間でも、昔からどぶろくは造られていたのだろうが、酒税法によって、どぶろくは「密造酒」になった。「どぶろく特区」は、「むかずあったずもな」の伝統の味覚をよみがえらす試みだろう。山菜やらヤマメやらの「山の幸」をいただきながら、飲みほすこのどぶろくは、まろやかで口当たりがよく、飲むほどになつかしい気持ちになって話がはずむ。
「申請から免許の交付までは、苦労の道のりだったが、おかげで民宿の予約がふえ、挑戦してよかった」と主人の江川幸男さんは語る。江川さんは、戦後すぐに、この山間地に入った開拓農家の2代目。その開拓精神が免許までこぎつけた原動力ということで、どぶろくに付けた名前は「開拓」だった。
「このあたりも、河童や天狗がいるんですか」と江川さんに尋ねたら、「昔は、見たという人がいたね」と江川さん。
遠野市がどぶろくを「日本のふるさと再生特区」として、政府が進める構造改革特区に手をあげたのは2年前。財務省・国税庁は「酒税の根幹にかかわる」と抵抗し、「どぶろく」という名前にも密造酒を連想させるとして、拒否反応を示したという。しかし、構造改革特区の目玉ということで、官邸も乗り気になり、なんとか実現にこぎつけた。
「どぶろくというイメージが遠野につくことや、地域の既存の酒造メーカーを圧迫するのではという心配もあったが、どぶろく特区は観光の柱になりそうだ。それはいいのですが、特区の知名度が高まったためか、ここではどぶろくが許されると勘違いして、地域の集まりなどに、堂々と密造酒を持ってくる人が出てきた、なんて話を聞くのは困ったことで……」と遠野市長の本田敏秋さんは語る。同市では、もう1施設に免許が下り、申請の動きもふえているという。
山の暮らしの体験を「グリーンツーリズム」と言うそうだ。遠野市も盛んで、NPO法人「遠野山・里・暮らしネットワーク」などが中心になって、都会から訪ねてくる人たちに、農作業や炭焼き、乗馬などを体験させているという。
殺伐とした都市の生活は、河童や天狗が遊び回る共同幻想を奪い、孤独な個人の妄想に帰着する「個幻想」を増幅している。山の暮らしの体験、追体験は、都市の人々にとって不可欠なものになっているように思う。
どんとはれ、どんとはれ。
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