| 「パートナーに恵まれて」 November
18, 2004 |
憂鬱なブッシュ再選
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 | 植竹 伸太郎
ウエタケ・シンタロウ
朝日新聞社会部で警視庁記者クラブなどを担当。横浜支局長などを経て総合研究センター主任研究員。日曜版連載「旅する記者50人」で「聖地−−ゴルフの巡礼者たち」を執筆。 |
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小飯塚一也の「世田谷棲息」
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アメリカの新しい大統領にジョージ・W・ブッシュ氏が再選される様子を真夜中のテレビで見ながら、ぼくは憂鬱になった。陰気でどこかうさんくさい対立候補より、能天気な保安官をアメリカ国民が選んだのはわからなくもないが、これでイラク戦争はますますイスラム原理主義とキリスト教原理主義の戦い、つまり文明の衝突という泥沼にはまりこんでいくことだろう。だが、ぼくが憂鬱になったのは、そのためだけではなかった。ゴルフに対するイメージの低下が、今後も世界的な規模で続くだろうと思ったからである。
マイケル・ムーアの監督作品『華氏911』がテレビで取り上げられるたびに、ブッシュ氏がゴルフ場でコメントを述べる場面が登場する。彼はテロについてひとくさり話したあと、「さあ、打つよ」といってゴルフクラブを握りしめるのである。これはまずい。テロや戦争で、あるいは飢えで、世界中の人々が苦しんでいるとき、唯一の超大国の大統領がゴルフに興じているとは、とテレビや映画を見た世界中の人々が眉をしかめる。
そしてその非難の目は、ゴルフそのものに向けられ、ついには、ポケットマネーをやりくりして週末ゴルフに出かける我らアマチュアゴルファーに飛び火する、「ゴルフなんぞやって」と。その肩身の狭さが、これから4年間も続くのである。
映画館で見たときは、ムーアの映画はテンポが速すぎて字幕スーパーが読み切れず、よくわからなかったのだが、ニューヨークタイムズのドン・ヴァン・ナッタJr記者の近著『大統領のゴルフ』(日本放送出版協会)によると、この場面はこんな具合だったらしい。
2002年8月4日の朝、ブッシュ氏はメーン州のケープアレンデル・ゴルフクラブの1番ティーグラウンドで、前夜イスラエルで起きたバスの自爆テロで9人もの犠牲者が出たことについて同行記者からコメントを求められ、「すべての国がテロを阻止するための行動をとるよう提案する」と語った。その直後に「さあ、ドライバーだ」とやったのである。しかもその第一打が弧を描いてラフに落ちると、彼は当然のようにポケットから別のボールを取り出し、マリガンで打ったのだった。
マリガンというのは、ティーショットを失敗したとき、同伴競技者の同意を得て無罰打で打ち直すことである。囲碁で「待った」を掛けるようなものである。日本ではあまり馴染みがないし、もちろんルール上も許されないのだが、アメリカでは仲間うちのラウンドなどで広く行われている。もともとは最も緊張する「朝一(1番ホールの第一打)」だけに適用されたようだが、すべてのホールで認めるゴルファーグループも結構いるらしい。
このシーンでぼくは、様々なことを考えるさせられた。例えば長くメディアに携わってきた者として、「ムーアのように都合のいいデータだけを集めれば、好き勝手なキャンペーンができるな」と、今さらながらメディアの怖さを自覚した。ティーイング・グラウンドまで記者につきまとわれるアメリカの大統領は大変だな、などとも思った。そして、ゴルフが好きな政治家は多いし、ゴルフにまつわるエピソードも多いけど、いい話は聞いたことがないなあ、アメリカでも日本でもと、ついにため息が出た。
ブッシュ氏の父親で2代前の大統領、いわゆるパパ・ブッシュ氏もまた、湾岸戦争当時、しばしばゴルフカートに乗ったままコメントを出した。それで顰蹙を買ったのが、2期目の選挙でクリントン氏に破れた一因だといわれる。上述の本には、そのパパ・ブッシュ氏が「大統領を辞めたら友人たちがOKをくれなくなった」とぼやいていた話が出てくる。そういえば、ロッキード事件の田中角栄氏のゴルフは「グリーンに載ったらOK」だったと、友人の元高級官僚氏から聞いたことがある。
パパ・ブッシュ氏を破ったクリントン氏も大のゴルフ好きである。97年にグレッグ・ノーマンの自宅で転んで右膝に大けがをしたように、プロゴルファーの友人も多い。だが彼のゴルフは、その華やかさより、彼が公言するスコアを、ゴルフ仲間はもちろん米国民の誰もが、信じていなかったことことのほうが有名である。マリガンとOKを駆使してのスコアだったからだ。だから彼が「実習生とは性的関係はなかった」と抗弁しても、誰も信じようとはしなかった。
顰蹙を買ったと言えば、ハワイ沖で愛媛県の水産実習船「えひめ丸」が米原子力潜水艦に衝突されて沈没したときの日本の首相、森喜朗氏を思い出す。事故の知らせを受けた時、森氏は横浜の戸塚カントリー倶楽部でゴルフをしていたが、そのままプレーを続け、クラブハウスをあとにしたのは2時間もたってからだった。後に、森氏は賭ゴルフをしていたとか、数千万円のゴルフ会員権を無償提供された、といった話も取りざたされた。
実のところ、クリントン氏や森氏のゴルフに比べれば、ブッシュ氏のゴルフはそれほど罪はないのかもしれない。彼がゴルフに入れ込んだのはゴルファーの家系に生まれ育ったからである。上院議員だった父方の祖父はUSGA(全米ゴルフ協会)の会長だったし、パパ・ブッシュ氏の母方の祖父はアマチュアの英米対抗戦・ウオーカーカップの主宰者だった。それだけにブッシュ氏は子どものころから、ゴルフでは絶対にごまかしをしてはいけないと教えられてきた。マリガンをするのも1番ティーだけだったという。
ムーアの映画を上映する館は少なくなった。が、早くもDVDが登場する。ブッシュ氏が何と言い訳しようと、ブッシュ政権が続く限り、そしてイラク戦争が続く限り、あのケープアレンデルの1番ティーの場面で眉をしかめる人も、無くならないだろう。
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