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アサヒ・インターネット・キャスター



「パートナーに恵まれて」 December  02, 2004
ボールが飛ばない!

植竹のイラスト植竹 伸太郎
ウエタケ・シンタロウ

朝日新聞社会部で警視庁記者クラブなどを担当。横浜支局長などを経て総合研究センター主任研究員。日曜版連載「旅する記者50人」で「聖地−−ゴルフの巡礼者たち」を執筆。
バックナンバー 小飯塚一也の「世田谷棲息」


晩秋の1日、大学時代の友人たちと紅葉の奈良に出かけた。どういういきさつでか、仲間の一人が名門ホテルの社長に就任したので、からかいがてら1泊し、翌日、久しぶりにゴルフをしようということになったのである。コースはその新社長が奈良国際ゴルフ倶楽部を手配してくれた。

奈良国際は昭和32年の開場で、名匠といわれる上田治の設計らしく、各ホールが種々の樹木でセパレートされた美しいコースである。メイングリーンはコウライで、レギュラーティーでパー72、6630ヤードと、関西のコースとしては長い。ただ、月によってベントグリーンと交代で使っており、今回はベントだったので6071ヤードと短かったが、ぼくらアベレージゴルファーには手頃だった。

ぼくがゴルフに復帰したのは手術後1年余りたったこの夏である。練習場にはちょくちょく通い、コースにもすでに6、7回出たので、そろそろ腕の方も手術前のレベルに復帰して良さそうなのだが、なかなかそうはいかない。まず、グリーン回りのアプローチが練習場と本番ではまったく勝手が違い、どうもうまくいかない。今回もダフリ、トップの連続で、グリーン上を行ったり来たりする往復ビンタを2度も喰らってしまった。

ではショットはまずまずなのかというと、これもなかなか。17番は奈良国際の名物ホールで、ティーグラウンドに立つと、フェアウェーは谷底のような池を迂回して右ドッグレッグしている。「あの二つのバンカーの間を狙えば、180ヤードのキャリーで届きます」と、若いキャディーが対岸を指さしながら言った。

だが、ぼくのドライバーショットは右側のバンカーの右端方向に向かって飛んだ。「あれだと200から210ヤードは必要だぞ……」と、ぼくははらはらしながら打球を目で追った。ボールは対岸の土手の端に当たり、池に転がり落ちた。そう、ショットの飛距離が極端に落ちてしまったのである。延べ3カ月に及ぶ入院とその後ののらくら生活で、腰や背、肩の筋肉がすっかり衰えてしまったらしい。

3番のパー3では、いい感じで振り抜けたなと期待して打球を追っていたら、「手前のバンカーですね」とキャディーに言われ、がっくりしてしまった。ただ、アイアンなら番手を調整すればなんとかなるだろう。ドライバーはそうはいかない。

ゴルフに復帰し、練習場に通うようになって愕然としたのが、このドライバーの飛距離低下だった。体がゴルフを忘れてしまったのだから、クラブがうまくボールに当たらないのは当然だが、たまにナイスショットしても、手術前の20から30ヤード手前までしか届かない。何回かそんな状態が続いた後、ぼくは重大な決断をした。「仕方ない。クラブを買い換えよう」

手術前に使っていたドライバーは、ヘッド体積300CC、ロフト角10.5度、シャフト長45インチ、堅さRだった。50代半ばに使っていた「285CC、10度、44.75インチ、SR」に比べれば、そうとうにシニア向きである。それが今回、ゴルフショップで店員の勧めるままに新調したのは「400CC、11度」というグランドシニア並みのクラブだった。

ヘッドが大きいと慣性モーメントが大きくなるのでボールが曲がりにくく、思い切って振り回せる。ダンロップフェニックス出場で2年ぶりに来日したタイガー・ウッズのスイングをテレビで見ていて、びっくりしたのはドライバーの巨大なヘッドだった。だいたい彼のような飛ばし屋は、方向性を確保するために小さなヘッド、短いシャフトと相場が決まっていた。それが2週間ばかり前から460CC、45.25インチになっていたのである。そういえば彼はここ1、2年、ドライバーが曲がるのに苦しんでいた。試行錯誤の末に行き着いたのが、この超デカヘッドだったのだろう。

ぼくの場合はウッズほどデカヘッドではないが、ロフト角を大きくしたので、ボールが高く上がる。これで思い切り振り切れば、ボールは高く、まっすぐ飛び、距離がでる、はずだった。しかし現実は甘くない。

確かに、たまにナイスショットすると、つまりうまく体重移動ができ、ボールを芯で捉え、クラブを振り切ることができたときは、手術前に匹敵する飛距離が出た。が、あくまで、たまに、である。足腰が弱っていて踏ん張りが効かないから、どうにもスイングが安定しない。腰の回転が遅れ、つい右腕に力が入り、ボールは左へ左へと曲がる。それではと上半身のタイミングを遅らせると、今度は右へ飛び出す。奈良国際の名物ホールという肝心なところで、それがでてしまった。

奈良国際でプレーした翌日、東大病院移植外科の外来で、定期検診を受けた。幸い血液検査のデータも超音波検査の画像も、順調な経過を示していた。ひと息ついたとき、ぼくは若い主治医に訊いた。

「退院してもう1年以上になるんですが、どうも体力の回復が遅くって。すぐ疲れるし、力も入らないんです。何か服薬の影響じゃないんですか」
「そういうことはないと思いますよ。まあ、ゴルフができるようになったんだから、いいじゃないですか」
「そのゴルフで、力が入らないんですよ」
「うーん、お年のこともありますからねえ」
ぼくは憮然とするしかなかった。



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