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アサヒ・インターネット・キャスター



「パートナーに恵まれて」 December  30, 2004
サルも鳥も

植竹のイラスト植竹 伸太郎
ウエタケ・シンタロウ

朝日新聞社会部で警視庁記者クラブなどを担当。横浜支局長などを経て総合研究センター主任研究員。日曜版連載「旅する記者50人」で「聖地−−ゴルフの巡礼者たち」を執筆。
バックナンバー 小飯塚一也の「世田谷棲息」


師走も押し迫ってきたというのに、先輩に誘われて千葉の山の中までゴルフに出かけた。友人の車に便乗させてもらったのだが、久々の5時半起きは辛い。アクアラインを抜けたころから雨も降り出した。「おれたちも物好きだな」と自嘲気味に話しながらコースに着くと、すでに4組のほぼ全員がそろっていて、いそいそと雨具を身につけている。全員がシニアクラスだから、よほど物好きが多い会社だったのだと、今さらながら思う。

雨は止まないままぼくたちの番が来て、1組目の4人がティーグラウンドに上がった。と、そのうちの一人が素っ頓狂な声を上げた。「あっ、サルだ、サルだぞ。ん? 子ザルもいるぞ!」

ぼくもあわてて打ち下ろしのティーグラウンド近くに駆け寄った。たしかに、ちょうどドライバーショットの届くあたりのフェアウエーを、1頭のサルが悠然と歩いている。よく見ると、左手のラフにはもっと小さなサルが3、4頭ほど座り込んでいる。「ほーっ」と、ほかの仲間も珍しそうに眼下を見やった。これまでにもゴルフ場でサルを見掛けたことはあるが、フェアウエーまで出てくるところは珍しい。

「まあ、サルぐらいはいるだろう。なにしろこのあたりの山は、トラもうろついているくらいだから」と仲間の一人が笑いながら言った。「やだ、お客さん。あれはもう25年も前のことですよ」と、中年のキャディーがしなを作りながら言った。

鹿野山神野寺の動物園からトラ2頭が逃げ出したのは、79年8月のことである。メスのほうはまもなく射殺されたが、オスは約1カ月にわたって山中を逃げ回った。夜な夜なトラの咆哮が聞こえ、近辺に住む人々は震え上がったという。その2年前にオープンしたばかりのこのゴルフ場は、さぞや閑古鳥が鳴いたことだろう。

トラはともかくサルの方は、よほどゴルファーに慣れているのか、ぼくたちの組がティーショットを終えてそばを通り抜けても、いっかな逃げようとしない。「目が合うと牙をむいて威嚇することはあるようですが、実際に人に危害を加えたことはありません」とゴルフ場の支配人。「もっとも、ボールを持って行ってしまうことは、たまにあるそうですが」

そういえば、学生時代の友人と札幌近郊のコースでラウンドしたときのことである。4人がティーショットを打ち終えてセカンドショット地点に歩いていくと、左手の林の中からヒョコヒョコと子犬が出てきた。いや、犬ではない、キタキツネである。「おっ、キタキツネか、珍しいな」と、ぼくたちはいかにも北海道らしいシーンにご満悦だった。

ところがそのキツネは、フェアウエーの真ん中あたりまで来ると、ひょいとボールを1個くわえ上げた。位置からしてH君のボールらしい。どうするのだろうと見守っていると、キツネはじっとこちらを見つめた後、そのままもと来たコースを戻り、林の中に消えてしまった。

「おいおい、どうなっちゃうんだよ」とH君はあわてた。だが、キャディーはあわてない。「ボールがあったあたりに別のボールをプレースして打ってください」と、こともなげに言った。よくあるハプニングなのだろう。「もちろん、ノーペナ(無罰打)ですよ」

止まっているボールが局外者によって動かされたときは、プレーヤーに罰はなく、そのボールをリプレースし、すぐに取り戻せない場合は別のボールをプレースする──もちろんキタキツネは、ギャラリーやマーカーなどと同じ局外者である。

実際、こんな場面が米PGAツアーでも見られた。フロリダ州ポンテベドラビーチにあるTPCソーグラスで開かれた、98年のザ・プレーヤーズ選手権でのことである。17番ホールは名物の浮島のショートホールで、スティーブ・ローリーは見事にグリーンオンさせた。ところがそのボールをカモメがくわえて飛び立ち、しかも海中に落としてしまったのである。もちろんギャラリーも審判員も同伴競技者も現認していたので、ボールがあったと思われるあたりに別のボールをプレースして、事なきを得た。

この、みんなが現認するというのが、大事である。仲間うちでラウンドしていて、フェアウエーかその周辺のラフに行ったと思われるボールが、なかなか見つからない。ふと空を見上げると、カラスが数羽飛び去っていった。「あいつらが持って行ったんじゃないか」「そうだな、カラスってのは悪戯者だからな」と、誰かが見ていたわけでもないのに、カラスに責任を押しつけて無罰打にしてしまうことが、ままある。

しかしまあ、鳥や獣とトラブルを起こしても、せいぜい罰打を払わされるぐらいである。罰金を払わされることがあると聞いたときはびっくりした。会社の仲間とハワイ島にスバル天体望遠鏡を見に行ったついでに、ラウンドしたときのことである。現地ガイドの運転でクラブハウスに向かう途中、コース内の池の周りに大きな鳥が群れているのが見えた。

「ネネですよ」とガイドがいかにも嬉しそうに言った。「気をつけてくださいよ。あの鳥にボールをぶつけると、罰金4000ドルですからね。裁判所の判決で、そうなったんですよ」

また大げさに言って〜と、ぼくは思ったのだが、帰国して何かのついでに調べてみると、どうもガイドの言うことは出任せというわけではなさそうである。ネネというのはハワイガンのハワイ語呼称で、ハワイ州の州鳥である。ネズミ退治に持ち込んだマングースに狙われ1940年代には一時、絶滅の危機に瀕したが、その後州を上げての保護政策が実り、ようやく持ち直しつつあるという。なるほど、これなら4000ドルかもしれない。

トラブルはあっても、コース場で動物に出合うのは楽しい。申年の最後に房総のコースでサルを見た。酉年の05年は、どこのコースでどんな鳥を見るのだろう。


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