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アサヒ・インターネット・キャスター



岩城元の「ハルピン発なんのこっちゃ」 November  27, 2003
謝らない?日本人

岩城元の写真岩城 元
イワキ・ハジム

むかし新聞記者、いま中国はハルビンの大学で教師兼留学生。

似顔絵:岸久理


バックナンバー 野々村邦夫の「駅弁地理学」


ハルビンの幼稚園で園児二人が喧嘩した。二人を呼んで喧嘩の理由を問いただした先生が一人を指して言った。「あなたが悪い。謝るべきです」。そして、もう一人に言った。「謝られたあなたは相手を許さないといけません」。さらに続けた。「謝らないのは日本人のやることです」。

2年前、僕がハルビン理工大学に来てすぐのころ、同僚の男女の中国人教師二人から「日本は中国を侵略したことをいまだに謝っていません。許せません」と言われてギクリとしたことがある。ともに教授クラスで、日本に長くいたこともある。普段はニコニコして親切な二人だが、この時だけは目が三角になっていた。

わが日本語科の学生たちはどう思っているのか。あの戦争では日本は少なくとも中国に対しては一方的に悪かった、と僕は思っている。で、日本は中国に謝った? それとも、謝っていない? 君たち、どう思う? 女の子が多数のクラスでそう聞くと「謝っていませーん」と可愛い合唱が返ってきた。

「西安寸劇事件」の背景には、チチハル市での旧日本軍の毒ガスによる市民の死傷、珠海市での日本人団体客による「集団買春」騒ぎなど、最近相次いで起きた事件があると言う。が、さらにその奥には「日本人はいまだに中国侵略について謝らない」という、日本に対する長年の不信感があるように思う。「ドイツは第二次世界大戦後すぐ謝ったのに、日本は・・・」という尾ひれがつくこともよくある。

そうまで言われるといささか癪なので、このことを授業でとりあげてみた。まず、1972年、両国が国交を正常化した際の「日中共同声明」を配った。中国側からすれば「中日共同声明」だ。当時の田中角栄、周恩来両首相らが署名している。声明の中ほどにこうある。

「日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」
「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」

僕には、日本側は90度の最敬礼で謝り、中国側がそれを評価して賠償請求も放棄した感じがする。ちゃんと一応のケリはつけているはずだ。が、学生たちは「これでは謝ったことになりません」と言う。問題は「反省」という言葉にあるようだ。確かに、日本の辞書を引いても「反省」は「自分の行いをかえりみること」(広辞苑)などとあるだけで「謝罪」の意味はない。

でも、これは日本側が一方的に述べたことではなく、両国の「共同声明」だ。中国側はこれを謝罪と受け止めて国交正常化に応じ、賠償請求も放棄したのではないか。そうは言っても、水掛け論になるかも知れないから、別のやつを学生たちに見せた。1995年8月15日、当時の村山富市首相が述べた「戦後50周年の終戦記念日にあたって」という、いわゆる「村山談話」である。

「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に過ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」

ここには、はっきり「お詫び」がある。謝罪している。これを見せると学生たちも「フーン」という感じで、一応は静かだ。

ところが、何週かたって学生の作文を読んでいると「日本はまだ謝らない」が相変わらず出てきたりする。どうも、かなりの中国人の頭には「日本は謝らない」が不変の真理として刷り込まれているのではないか。そんな気さえしてくる。が、中国人側から見れば「靖国神社参拝」にしろ、ごく最近の一連の事件にしろ、日本人のさまざまな行動を見ていると、心から謝ったとはとても思えない。村山談話だって、聞いてみれば「そうか」とは思うけど、あれは口先だけのこと、日本人は本当はまだ謝っていない――庶民の皮膚感覚としてはそうなってしまうのかもしれない。

冒頭の幼稚園での話を教えてくれた中国人女性が言う。「私も子供のころ、悪いことをして謝らないと、お前は日本人のようだと言われました」。さすがに、僕に気の毒だと思ったのか、あわてて付け加えた。「勉強でも仕事でも真面目にすると、日本人のようだと褒められましたけど・・・」。


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