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岩城元の「ハルピン発なんのこっちゃ」
November 11, 2004
トイレ事情 大は小を兼ね・・・
岩城 元
イワキ・ハジム
むかし新聞記者、いまは中国ハルビンの大学で「教師」4年目。教師をボランティアでやる代わり、授業料免除の「留学生」の資格も与えられているのだが、授業についていけず休学中。
似顔絵:岸久理
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野々村邦夫の「地図一途」
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「お暇なら公衆トイレ巡りをしませんか」。ハルビン在住の日本人青年から誘いがあった。一般的に言って、この国の公衆トイレは日本人にとって苦手中の苦手である。わがハルビンでも僕の知る限り、無料のやつは水洗ではないし、「大」でも隣との仕切りがない。ドアもない。地面に穴が掘ってあるだけだ。清潔感とは程遠い。そこにずらりと並んで用を足す。
トイレ巡りに誘ってくれた青年は当地に留学した後、日本語学校の教師をしている。多分、公衆トイレに学術的な興味があるのだろう。僕のほうは「暇」なら売るほどある。二つ返事でOKした。ただ、トイレは男用、女用がある。日本人の男2人では成果も限られるので、中国人女性にも付き合ってもらった。
当日はまず、ハルビンで最も古い街並みに出向いた。20世紀初頭、帝政ロシアがこの地を支配していたころに出来た街だ。道路の両側にはレンガ造りの主に2階建てのビルが並んでいる。不勉強で、何様式というのかは知らないけど、建築に興味のある人なら垂涎の街並みではないだろうか。最近は次々に取り壊されているが、古いビルもまだまだたくさん残っている。
で、目的の公衆トイレだけど、この街並みの後ろは中庭を囲んだロの字型のアパートになっている。トイレは各戸にはなく、中庭の一角に共同のやつがある。アパートの住民でなくても使える公衆トイレだ。のぞくと、長方形の穴が4つばかり掘ってある。おじさんが一人、前向きにしゃがんで用を足している。ニイハオ。ちなみに、こちらの人たちはトイレでしゃがむ時、入り口のほうに顔を向ける。
こんなふうにして当日、公衆トイレを十数カ所、見て回った。どれも大同小異だが、入り口近くで「大」を済ませた形跡もちょくちょくある。「けしからん行為だ」と僕が言うと、同行の中国人女性は「電燈もなくて夜は真っ暗です。中に入るのが怖いから、仕方のない面も・・・」と同情的だった。
後日、夜ひとりで公衆トイレをのぞいてみた。確かに真っ暗だ。目が慣れてくると、人のしゃがんでいるのがぼんやり見えてきたが、穴がどこにあるのか判然としない。足を滑らせ惨事を起こしても困るので、早々に退散した。
公衆トイレ巡りの2回目は、当地で日本語を教えている日本人女性2人も加わった。その時「示範公厠」というのを見つけた。「モデル公衆トイレ」である。「定期消毒」をしていると書いてある。期待して入ってみた。が、やはり汲み取り式だし、これまでと違うのは「大」の所に仕切りがある程度だ。ドアはない。仕切りと定期消毒が「モデル」たるゆえんなのだろうが、いささかがっかりだった。
こちらでNHKラジオを聞いていたら、上海のトイレ事情についての話があった。なんでも上海では今や、公衆トイレといえども仕切りやドアのないものはないとのこと。面白みには欠けるが、かの地でも一度トイレ巡りをしてみたいものだ。
ところで、僕が日本にいたころ、「中国の公衆トイレは汚くて嫌だ」と言う人がいると、「しかしねえ」と中国を擁護していたものだ。確かに中国では汚いトイレが多いが、トイレと名がつけば(家庭のものは別として)男用と女用がはっきりと分かれている。日本ではそうではない。例えば、バーやクラブのトイレは実にきれいだが、おおむね男女共用である。これは中国人から見れば変だ。そこで働く中国人女性も「いかにきれいなトイレでも、男性が使った後に入るのは嫌でたまらない」と言っていた。一方的に中国のトイレを批判するのはフェアではない。
ところが、ハルビンに住んでいて、僕の説には誤りがあることに気づいた。もちろん男女別々が原則だが、レストランで「大」のトイレが3つ並んでいて、うち2つが男用、1つが女用というのがたまにある。こんなのが男女別々と言えるのだろうか。それどころか、並んだ3つの「大」がすべて男女共用というのもいくつか見つけた。どれも街中のれっきとしたレストランである。当地ではトイレの男女共用化が進みつつあるのだろうか。
それはそれとして、こちらに来て以来、不思議でならないことがある。わがハルビン理工大学のトイレはもちろん水洗だし、男女のトイレは画然と分かれている。その男用には言うまでもなく「大」と「小」がある。ところが、男の子たちは小用なのに「大」に入ることが多い。和式トイレに似たやつに向かって、立ったままやっている。半分くらいの男の子がそうだろうか。「小」がふさがっているわけではない。某夜、酒を飲んでいた相手がみんな男の子だったので、理由を聞いてみた。
「だって、先生。その格好を見られたら、恥ずかしいですよ」
「でも、中国のトイレはもともと『大』でさえ仕切りもドアもなかったのだぜ。今さら恥ずかしがるなんて、変じゃないか」
「・・・」
「しかも『大』で小用をしている君たちだって、ドアは閉めていない。開けっ放しだぞ」
「あ、先生、分かりました。中国のトイレはもともと男用も『大』だけだったんです。『小』はなくて『大』で全部を済ませていました。だから、小用でも『大』の所でしたほうが、気持ちが落ち着くんです」
ふーん、大は小を兼ねるのか。中国数千年の伝統が今も小用のやり方にまで息づいているのか。でも、分かったような、分からないような・・・さっきの男女共用トイレといい、これといい、まだまだ研鑚を積むべきことが残っているようだ。
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