asahi.com
天気  辞書  地図  サイト案内  Top30 
サイト内 WEB
コラム 社 会 スポーツ 経 済 政 治 国 際 サイエンス 文化・芸能 ENGLISH 
  >AIC  >天声人語  >日本@世界  >ポリティカにっぽん  >風考計 
     
 home >コラム >AIC   


アサヒ・インターネット・キャスター



岩城元の「ハルピン発なんのこっちゃ」 November  25, 2004
横断歩道の渡り方

岩城元の写真岩城 元
イワキ・ハジム

むかし新聞記者、いまは中国ハルビンの大学で「教師」4年目。教師をボランティアでやる代わり、授業料免除の「留学生」の資格も与えられているのだが、授業についていけず休学中。

似顔絵:岸久理


バックナンバー 野々村邦夫の「地図一途」


わがハルビン理工大学の正門前の道路に歩行者用の信号がついた。この道路は幅がざっと55mある。両側に大学や各種の学校が多く「学府路」と呼ばれている。わが黒龍江省からお隣の吉林省へ通じる道でもある。おかげで交通量が多く、信号がなかった時は横断が大変だった。

歩行者用信号がついてあなうれしや、と思ったのだが、どうやら早とちりだった。信号が青になるのと同時に早足で渡り始めても、あと10mほどを残して赤信号に変わってしまう。青信号はいったい何秒間なのか、ストップウオッチで計ってみると27秒しかない。55mの道幅を27秒で横断するには、時速いくらで歩けばいいのか。今、日本の大人の間で算数がはやっているそうだが、これはきわめて簡単な計算である。

55m÷27秒×3600秒(1時間)≒7.3km

時速7.3km以上で歩かないと、青信号と同時に渡り始めても、27秒以内に向こうにたどり着けない。普通、人間が1時間に歩く距離は3〜4km、かなり速く歩いても6kmくらいだろう。時速7.3kmなんて、歩くにしてはべらぼうな速度である。

いったい、当局は歩行者のことをなんと心得ているのか。中国人にそう憤ったら、「もっと上がありますよ」と「文昌街」なる所へ案内してくれた。歩測してみたら、道幅は63mほどある。わが学府路よりまだ広い。問題の横断歩道はT字路にあり、歩行者用青信号の残り時間が電光掲示板に表示される。で、肝心の青信号の時間は23秒である。63mの道幅を23秒以内で横断するには――

63m÷23秒×3600秒(1時間)≒9.9km

時速約10kmで歩かないと、いや、これはもはや「歩く」とは言わない、走らないと、青信号の間に渡りきれない。

では、さっきの学府路にしろ、この文昌街にしろ、人々は走って横断しているのか。否である。青だろうと赤だろうと、信号にお構いなく、かつ車を避けながら、ゆうゆうと歩いて渡っている。信号無視だが、それしか横断の方法はない。青信号になるのを待ち、脇目も振らず一目散に駆け出したら、かえって危ない。

右側通行の中国の交差点では、正面の信号が赤だろうと青だろうと、車は右折できる。米国などと原則は同じなのだが、歩行者にとってはこの右折の車がとりわけ怖い。歩行者用信号が青で横断歩道を渡っていても、それを無視して車が突っ込んでくる。警笛を鳴らす車はまだ良心的だ。直進の車が、それも公共のバスが赤信号無視で横断歩道に突っ込んでくることさえある。「横断歩道にいる人間は自由にはねてよろしい」という決まりでもあるのか、と疑いたくなる。もちろんそんなことはない。何人かのドライバーに聞いてみると、「歩行者が第一です」と言う。ただ、それを守らないだけなのだろう。

こんなにも怖い横断歩道だが、日本から戻ってきた中国人に言わせると、日本のほうが怖いそうだ。つまり、日本では交通規則を守るのは当たり前のことだ。だから、歩行者用信号が青の横断歩道を渡っていて車にはねられるなんて、まず思わない。しかし、不心得者のドライバーもいる。そんな連中に突っ込まれたら、無警戒であっただけに避けきれない。大惨事になりかねない。車同士でも同じことだ。

一方、こちらでは、交通規則を守らないほうがむしろ当たり前だ。自分も守らないが、相手も守らない。車も守らないが、人も守らない。お互いに守らないのだから、相手に文句を言ったりすることもない。大人の付き合いである。ただ四方八方に注意を怠らない。だから、かえって安全なのだと言う。

案外、そういうことがあるのかもしれない。ハルビンに来て3年余り、一見むちゃくちゃな運転が横行している割には事故が少ない。歩行者がはねられるのも、まだ見ていない。それに、日本では最近、年寄りドライバーの車が道路を逆走していることがままあるそうだが、当地では年寄りでなくても車の逆走はちょくちょく見かける。道が広いせいもあるのだろう。横断歩道を渡る時、逆走の車がこないかどうかも、僕は注意している。かくして、今日も事故に遭わず、無事一日が過ぎていく。



ご意見はこちらへ・・・

Designed by TUBE graphics 


| 社会 | スポーツ | 経済 | 政治 | 国際 | サイエンス | 文化・芸能 | ENGLISH |
GoToHome ニュースの詳細は朝日新聞へどうぞ。購読の申し込みはインターネットでもできます。 GoUpToThisPage
asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
| 著作権 | リンク | プライバシー | 広告掲載と注意点 | アサヒ・コムから | 朝日新聞社から | 問い合わせ |
Copyright Asahi Shimbun. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission