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岩城元の「ハルピン発なんのこっちゃ」
December 09, 2004
友達の友達 そのまた友達
岩城 元
イワキ・ハジム
むかし新聞記者、いまは中国ハルビンの大学で「教師」4年目。教師をボランティアでやる代わり、授業料免除の「留学生」の資格も与えられているのだが、授業についていけず休学中。
似顔絵:岸久理
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野々村邦夫の「地図一途」
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私事ながら数年来、目の網膜にちょっとやっかいな病気を抱えている。日本に一時帰国した際には、真っ先にかかりつけの眼科に飛んで行く。この前の帰国の折、そこの院長のYさんが「そうそう、ハルビン医科大学にはKさんという優秀な医者がいるはずです。せっかくハルビンにいるのだから、一度診てもらったらどうですか」と言う。古くからの知り合いらしい。
ハルビンに戻って医科大に電話してみると、Kさんは教授で週に2回、外来患者を診察している。ご本人が気軽に電話口に出てくれたので「日本のYさんという医者に紹介されました。ぜひ診察してほしいのです」と告げた。「Yさんならよく知っています。次の木曜日の午後1時に来てください」とのこと。もちろん、以上の電話は中国人の日本語の先生がやってくれた。
当日、医科大付属病院の眼科に出向いた。僕のいるハルビン理工大学のご近所だ。「K教授」という名札の掛かった診察室があり、廊下の椅子には20人ほどが待っている。僕も空いていた椅子に腰掛けた。診察開始の1時になった。診察室のドアが開き、廊下にいた人たちがどやどやと入っていく。僕はどうすればいいのか。先ほどの日本語の先生が付き添ってくれているものの、いささか不安になってきた。
そこへ、がっしりとした体格の、50歳代とおぼしき男性が現れ、手を差し出した。「理工大の方ですね。私がKです」。流暢な日本語だ。なんと、医者が廊下まで患者を迎えに来てくれたのだ。
診察を受けながら聞いてみると、KさんとYさんは20年ほど前、日本の某大学病院で一緒だった。「Yさん、どうしていますかね」と、懐かしそうに聞く。診察が終わると、彼は紙切れに自宅と携帯の電話番号を書いて僕に寄こした。「目以外のことでも病気で困ったことがあったら、何でもいいです、いつでも私に電話してください」
今日の支払いはどうすればいいのか。付き添いの中国人に尋ねると、「そんなもの要りません。だって、K教授にとっては『友達の友達』がはるばる日本からやってきたわけですから、おカネなんて取るはずがありません」。そう言えば、僕の診察が終わってから、彼女も「実は・・・」と、ちゃっかりタダで診てもらっていた。「友達の友達、そのまた友達」というわけなのだろう。一挙に日中4人の友達の輪が出来上がった。
ちなみに、普通こちらで病院に行くと、予約以外の患者は受付でまず3元なり5元なり(1元=12〜13円)の「掛号費」を払う。「診察料」と言うより「受付料」だが、簡単な診察だと、支払いはこれだけで済む。僕は「予約」なので、受付を通さず直接にK教授のところへ行った。このおカネさえ払っていない。薬局で薬を買った以外は、すべてタダだった。
10年近く前に日本へ留学した中国人女性がいた。日本語には自信があるのだが、初めての外国、初めての日本、知った人は誰もいない。不安でならない。そこで、日本人と付き合いのある友達に、日本人の友達4人の電話番号を教えてもらった。
日本に着き、アパート探しなど困ったことがいろいろ出てきた。助けてほしい。教えられた「友達の友達」に電話したが、3人は「はあ?」と言った感じで相手にしてくれない。中国人なら「友達の友達」から電話があれば、すぐ駆けつけて面倒をみるのに・・・。1人だけ付き合ってくれて食事を一緒にしたが、食事代は自分が払った。中国では考えられないことだ。部屋に戻ってから、大声をあげて泣いた。日本では自分は独りぼっちなんだと思った。「おかげで随分と強い人間になれました」とは、後日の彼女の述懐だ。
以上、たった二つの例だけど、社会人類学者、中根千枝さんの著書『タテ社会の人間関係』を思い出す。おおざっぱに言えば、会社など集団の中でタテ関係を軸にして生きている日本人、友達などヨコの関係を軸にしている中国人やインド人――K教授の態度は紛れもなくヨコ社会でのものだろう。いろいろ聞いてみると、同じ中国でも東北地方(旧満州)の人たちは特に「友達」そして「友達の友達」を大切にするのだそうだ。
K教授の親切には感謝感激だが、友達だからと言ってタダにしてもらうのは、いささか気が引ける。次回からはしかるべき金額を取ってほしい、とそれとなく打診してみたが、冗談はよしてくれ、といった感じである。当分は野暮は言わないで、「友情」に甘えるしかないようだ。
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