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アサヒ・インターネット・キャスター



「亜細亜くいだおれ」 November  09, 2004
IT放題のちびっこいホテル

牛嶋さんのイラスト牛嶋 直美
ウシジマ・ナオミ

からだの組成の87%がチューカでできているちゅーか。残りの13%はタイ、ベトナム、インド料理でできてるちゅーか。
バックナンバー サブリナのベイエリア・ママ


シンガポールで、今とても気になる宿がある。1929といって、チャイナタウンの真ん中あたりに位置するプチホテルだ。数字のホテル名は、ビルがその年に建てられたことに由来する。

ここがどんなにおもしろいかというと、イスの大好きなオーナーが自分のコレクションを自慢するために作ったホテルで(というのはあくまでわたしの意見だが…)、客室はもちろん、ジャクジーの周囲やロビー、ラウンジなど、どの部屋にも必ずデザイナーズチェアが置かれているのだ。ITホテルとは、つまり、イスがたくさんあるホテル。

元々同じ場所に、古い中国式のホテルがあった。以前はちびこい客室が52室だったが、もっとゆったりした造りにしようといくつかの部屋の壁をぶちぬき、各部屋をやや広めの32室に改装。

なんて詳しい説明を、ホテルスタッフから取材時に受けたのだが、その「広くした」という言葉を、にわかには信じられないくらい、ひと部屋がどれも本当にちびこかった。これは決して「狭い」と文句をいっているわけではなく、わたしのように「小さいもの好き」には、興味をそそられまくりのたまらないサイズなのである。

広さを実際に測ったわけではないからあくまで推測だが、「いちばんコンパクト」といわれた部屋は、ややおまけして四畳半という印象。そこにベッド、ちびデスク、デザイナーズのオフィスチェア、さらにシャワー・トイレ・洗面用シンクがぎゅぎゅぎゅと設えてある。普段ともだち間で「狭いホテル」の代名詞として使う香港の九龍ホテルがゆったり見えるほどで、この部屋はドアを開けるのもギリギリ、荷物を広げるスペースはベッドの上だけだった。

その「狭さ」を含め、客室はホテルならではの機能性を重視している。

徹底的に無駄を省いた、というより肩の力がふにゅんと抜ける造りで、バスアメニティのボディソープとシャンプーは、容器が壁かけのポンプ式。デスク上には、マグカップにスティックタイプのインスタントコーヒー、湯沸しポット、冷蔵庫代わりにちび卓上クーラー(一部の部屋にはミニ冷蔵庫あり!)、ボールペンでなく鉛筆と、人によっては「安っぽい」「ちっこすぎ」と顔をしかめそうなラインナップ。でも、なんでも手の届くところに置いた「こたつ生活」ラブ、ワンルーム大好き、ちっこいのたまらん、なんてわたしのようなちびマニアには願ってもない造り。見てるだけでわくわくしてくる。

そんな、どこもかしこもちびこい作りでありながら、各部屋デフォルトの壁掛けテレビからはケーブル放送が流れ、ブロードバンドは無料で使い放題、ロビーラウンジではさらに無線ランが使えるので通信が必要な忙しいゲストには便利このうえなし。取材中も、宿泊客のアメリカ人ビジネスマンがちびこいB5ラップトップを抱えてショートパンツ姿でカシャカシャ仕事をしていた。

そのラウンジがある道路に面した1階はガラス張りで、レストランと、ネコの額ほどのロビーがあり、ホテルと聞いて思い浮かぶ(なんとなくでも)重厚な雰囲気は皆無。わたしが最初に訪れたときなど、入口にポツンと黒いバーバー・チェアが置いてあって、ガラス扉越しになかを見ながら「えーと、あ、ここは美容室ね」とうっかり通りすぎそうになった。

2度目に訪れたとき、偶然イスの搬入に遭遇。業者の人たちが運ぶ様子を見ていて、このイスが今あるイスと交換されるのかー、わくわく。ほんとにいっぱいあるのねーと、うれしくなって見学する。ホテルスタッフのAさんがわたしを見つけて「はーい」と寄ってきた。そして、いちばんキビキビ動いてイスを運んでいる、わたしが業者の人と信じて疑わなかった人を指差し、「彼がイスの持ち主よ」と笑ったのだった。

32歳のオーナーは、元弁護士。有名な医者の家に生まれ、イギリスに暮らし、ちっこいころから日常的にヨーロッパあたりを旅行して回ってきたそうだ。いつかは生まれ故郷に、ロンドンのサービスアパートメントや、プロヴァンスのプチホテルなど、さまざまなスタイルのホテルから自分の気に入ったとこだけをとりいれ、シンガポールらしさをプラスしたホテルを作りたかったとはなしてくれた。

北欧家具が好きで、中でもとにかくイスが大好きで、ひとつずつモダンなイスを集めているうちに、気付いたら膨大なコレクションになっていたという。イームズとかフィリップ・スタルクくらいしかそらではいえないイス素人のわたしには、有名なイスといっても、パントンチェアとかコーンチェアくらいしか名前はわからなかったが、詳しい人が見ると、かなりすごいラインナップらしい。

で、これをうまく活用したいとホテルの部屋に置くことを考え付いたのである。ホテルで使っている60脚ほどのイスは定期的に交換し、さらに自宅にはこの他にも膨大な量のイスをもっているそうで、「来年にはまた別のホテルを造るよ」といたずらっぽく笑ってみせた。





写真は左上から:いちばんコンパクトな、こたつ風味の客室。ベッドファブリックはすべてフィンランドのマリメッコで、これまたポップでわたし好みなのだった。

ハートコーンチェアにバーバー・チェアがあるスペースが、ホテルロビー。床屋のイスと聞くとばかばかしく感じそうだが、質感がとてもきれいで、ゲストにはかなり好評。どころか、先述のアメリカ人ビジネスマンなんて「あれ、買えるの?」と聞いたくらいお気に入りだった。

ヴァローナチョコを使ったチョコレートケーキ。ホテルスタッフが「絶対食べなさい」と勧めてくれたデザート。

EMBERの店内。ランチタイムはおハイソな空気が漂っとりました。

朝食はZチェアに座って

restaurant EMBER
住所:50 Keong Saik Road, Singapore
電話:6347-1928

1929の1Fにあるレストラン。直営ではないけど、宿泊料にはここでの朝食も含まれている。イタリア料理をベースに、アジアの調味料を使ってアレンジしたモダン・ヨーロピアン・フードが食べられる。

ここのイスもおしゃれだったが、ホテルのオーナーではなく、レストランのオーナー・シェフが選んだそう。Zチェアは、マレーシアでのカスタムメイドとのことでした。



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