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アサヒ・インターネット・キャスター



「亜細亜くいだおれ」 December  21, 2004
アワビ大王

牛嶋さんのイラスト牛嶋 直美
ウシジマ・ナオミ

からだの組成の87%がチューカでできているちゅーか。残りの13%はタイ、ベトナム、インド料理でできてるちゅーか。
バックナンバー サブリナのベイエリア・ママ


香港にはアワビ大王と呼ばれる人がいる。
銅鑼灣(とんろうわん=コーズウェイベイ)にある廣東料理店「富臨飯店(ふーらむふぁんでぃむ=フーラム・レストラン)」の社長で総料理長の楊貫一(よんくんやっ ※日本のメディアで取材されるときの表記では、ようかんいち)さんで、料理の道に携わり50年以上の経歴をもつ。

1983年から専門を超高級食材の「干鮑(ごんぱお=干しアワビ)」一筋に絞り、調理法についての研究を重ね、今や香港だけでなく本土のメディアでも「鮑魚大王(ぱおゆぃだいうぉん=アワビ大王)」としての特集が組まれるほど中国料理界では注目される存在だ。

アワビ大王が作る有名料理は「阿一鮑魚(あーやっぱおゆぃ=大王の特製干しアワビ料理)」。じっくり寝かせた干鮑を時間をかけて戻した後、戻した煮汁でこっくり煮込むだけという、文字にしてしまえば超シンプルなもの。

とは一口にいっても、干しアワビを一個作るのに数ヶ月、寝かせるのに数年(これは香港でのやり方。日本では作りたてが珍重される)、そして戻すのに煮込み続けて数日かかる。むぐむぐパクンと一瞬で飲み込んでしまうそのひと口に、うんとこ時間をかけ蓄積されてきた旨みがぎゅぎゅっと詰まった超高級料理。いわば悠久の時間を楽しむ一品なのである。中国の歴代皇帝も、ひたすら好んだと語り継がれる。

もしこの干しアワビ料理を今、香港で食べようとすると、ちっこいサイズでも一個最低2万円、5万円とか10万円とかへーきでする(干しアワビが日本産の場合)。

わたしが奮発して食べる一回分のコース料理よりも、たった一個の阿一鮑魚のほうがずっと高価だったりするのだ。そんなわけで「取材」という大義名分があってもわたしの身分ではほんの数回しか食べた記憶がないのだが、香港明星(ほんこんみんしん=芸能人)や有銭老(やうちんろう=お金持ち)の間では、宴席に欠かせない料理の花形なのである。

香港人のともだちからの電話で、そのアワビ大王が日本へやってくる、という情報を聞きつけて、あわてて同行取材を申し込んだ。今回の旅は岩手めんこいテレビの企画で、大王が三陸の漁港やら、漁師さんのお宅やら、干しアワビ工場やらを訪れるというもの。昨年、漁師さんたちが香港を訪れた、その返礼になるという。昨年の番組を見てなかったわたしには、いまいちピンと来なかったけど、なんだか楽しそうなことだけは十分に伝わってくる。

大王が店で使う料理の材料の干鮑は、岩手県産の吉浜鮑、青森県産の大間鮑、そして千葉県産の大網鮑と日本産のみ。これまで「干鮑の調理法」を20年に渡って突き詰めてはきたものの、大王にとって「干鮑そのものの作り方」は未知の世界。知らないことへの興味が、御歳73歳の大王を遥か三陸へと駆り立てたのだという。

アワビ大王については、わたしも日本のガイドブックの仕事で取材をしたことがあるから、銅鑼灣の店は訪ねてるし、もちろん大王本人にもお会いしている。また香港の雑誌や新聞広告にはご本人が頻繁に出ているので「メダルをかけた料理長」を、知らずに見ている人も多いのではないかと思う。

写真はだいたい同じ格好で同じポーズで、正直いってわたしの中には「メダル好き」「マスコミ好き」「目立ちたがり」な印象がとーても強かった。この三陸の旅への同行取材で、それの印象は日ごと変わることになったのだが、それは次号よりゆっくりルポしていきたいと思う。



写真は:アワビ大王を特集した中国のレストラン業界誌「中国食品FOOD」。香港の雑誌や新聞でも、いつもこの笑顔です。ね、ね、見たことあるでそ。

大王のお店

富臨飯店(ふーらむふぁんでぃむ)
住所:香港銅鑼灣駱克道485號
電話:(852)2891-2555

アワビ大王が作る名物料理「阿一鮑魚」が食べられる高級広東料理店。おいしいゴージャスなアワビ料理に心は豊かになるけど財布はすっからかんになります。

店内には中国の著名な書家が書いたという作品があちゃこちゃに貼られていて、なんだかありがたい雰囲気。大王ご自身も書をたしなむとのこと。



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