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| 「欧州どまんなか」 December
14, 2004 |
冷戦とは何だったのか
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 | 美濃口 坦
ミノクチ・タン
1970年から京都ドイツ文化センター勤務。1974年ミュンヘンに移住。1980年から1991年まで書籍販売業。人生の大部分を通訳、翻訳、教師等で日銭を稼いで生きてきた「フリーター」先駆者。この数年来、日独のメディアに寄稿。訳書「比較行動学」(アイブル=アイベスフェルト) |
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その日20キロの行軍して疲れている若い兵士は、森の中の十字路で突然襲撃される。
彼らは瞬く間に武器を取り上げられ麻袋を頭から被されてしまった。
その後建物の中に運び込まれて尋問開始。彼らは壁の前にひざまずかされホースで水をかけられるなど散々痛めつけられた。尋問に協力的でないと電気ショックの拷問があたえられた……。
このような虐待場面の写真が残っていて、その一枚には下半身が露した若い兵士がうつっているという。
これは今年の夏北ドイツのコースフェルトの連邦軍兵舎の中で起こった事件である。イラクのアブグレイブ刑務所で米軍兵士がした虐待を連想して、同じ不祥事がドイツにも起こったことを嘆き憤慨する人は少なくない。
でもドイツで起こったことは兵士の訓練の一部である。それも海外派兵で人質になったときを想定し、できるだけ本物に近づけようとした。だからこそ尋問する側も母国語でなく英語でどなったといわれる。
兵士にはもちろん訓練であることが知らされていたし、電気ショックも水をかけられるのも耐えられなくなったら合言葉の「ティフィ」といえば中止されるはずだった。(ちなみに「ティフィ」とは人気児童番組セサミストリートに登場するピンク色の鳥である)。反対に、アブグレイブ刑務所のイラク人にそんな便利な合言葉などなかった。
こうであるのは、イラクのほうは現実の出来事であるのに対して、ドイツ連邦軍兵舎のほう練習だからで、この大きな相違をおろそかにするのは映画館の中のスクリーンに映ることを現実と取り違えることに近い。
徴兵制のあるドイツでは成人になった男性は(昔は18カ月であったが)、現在では9カ月間軍務につく。彼らは、まず武器の扱い方を含めて兵士としての基礎教育を3カ月間受け、その後いろいろな部署に配置される。問題の訓練を受けたのはこの3カ月間の基礎教育の終了まぎわの兵士であった。
そのために経験の浅い兵士がこのような扱いを受けたことを挙げて今回の不祥事を批判する人は多い。そう思う人は経験のある兵士に対してならよいと考えているのであろうか。この点がはっきりしない。
拷問とか虐待とかいった行為に感情的な反応をする多くの欧米人には、戦争とか軍隊とかいったものが、いつも人を殺したり他人に苦痛をあたえるものであるということを考えない傾向があるのではないのか。空からの爆撃で誰かを負傷させて苦しませることは、虐待することとどこが違うのであろうか。
現在ドイツの連邦軍は、いろいろな意味で変わっていかなければいけないのに、それが思うほど進まない。そうであるのは、人々が冷戦が終了するまで慣れ親しんだメガネをはずして現実を見ることができないからといわれる。
冷戦時、兵士は攻めて来る敵軍に、自国を守るために銃を発射すればよかった。これは母親が自分の子どもを守るのと同じで、多くの兵士には、自分が戦う正当性を疑う必要がなかった。ところが、今カブールの町でパトロールするドイツ兵士には、自分の行為の正当性は自明でない。それどころか、その兵士は自分の周囲の現実を知れば知るほど、自分の命を危険にさらす決断を下した政治家に不信感を抱くかもしれない。
こう考えると冷戦時代のシビリアンコントロールなど、本当に簡単だったことになる。
次に、(今から考えると)冷戦とは東西の巨大な「殺人マシーン」が対峙しているだけで、個々の兵士も結局のこの巨大な機構の歯車に過ぎなかった。熱戦になったとしても、一人の兵士は東の方向に鉄砲を撃っているうちに核戦争になり、民主主義の敵や人権侵害者になることなく「制服を着た市民」として往生できた。兵士は当時厄介な問題に直面しないですんだのである。
ところが、海外に派遣される兵士は、今や歯車の一つとして「殺人マシーン」の中に隠れていることなどできない。兵士は自分の決断で人殺しを実行しなければいけないし、また「見えない敵」に絶えず脅かされている。これは、兵士が冷戦時代と別の能力を持たなければならないことを意味する。
海外派兵兵士が(人質になることを含めて)起こりうるあらゆる状況を想定してその訓練にはげむのは当然のことで、すでにドイツ軍の中で実行されているといわれる。ということは、徴兵義務で兵役についた若者も、自国軍隊の本当の姿を経験することのほうがよいことにならないのか。
少し前まで兵士が敵に捕まると「捕虜」になったとされた。今や兵士が「人質」なることを想定して訓練に励む。私にはこれも時代が本当に変ったことをしめすように思えてしかたがなかった。
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