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アサヒ・インターネット・キャスター



石井晃の「スポーツ・ジャーナル」 December  29, 2004
セカンドキャリア

似顔絵石井 晃
イシイ・アキラ

大阪社会部記者、デスク、和歌山支局長、論説委員などをへて、2002年4月から編集委員。読書も趣味のひとつで、アサヒコム関西のページで「乱読味読お買い読」を掲載。(03年2月終了)
絵・森元暢之
バックナンバー 砂山清の「地球ワンカット」


大昔、僕がまだ紅顔のさわやか少年(?)だったころの話である。中学、高校の同級生にスポーツ万能の友人がいた。体育大会の100メートル競走ではいつもトップ争い、ソフトボール投げでは僕の2倍以上、100メートルぐらいは余裕で投げていた。

野球部のエースで、打っても中心打者。同じ野球少年といっても、並みの能力しか持たない僕から見れば天上の星、同列に語るのもおろかという存在だった。

当然のようにプロ野球界から声がかかり、卒業と同時に近鉄球団に入団した。すぐに肩を痛め、投手としては大成しなかったが、打者に転向して大成功。元々素質があったのだろう。しばらくするうちに好機に強い打者として認められ、内野手としてレギュラーの座を獲得した。

彼の名前は伊勢孝夫。当時の三原監督をして「伊勢大明神」と呼ばしめた勝負強い選手である。後にヤクルトに移籍し、そこでも代打の切り札として活躍、コーチとしても存在感を示したから、古いプロ野球ファンにはご存じの方も多いだろう。

そんな昔話を持ち出したのはほかでもない。日本には数え切れないほどの野球少年がいるけれども、プロ野球界に進み、そこで活躍できる選手は、ほんの一握りしかおらず、それはすべて、少年時代からピカピカの才能を持った選手に限られるということをいいたかったのだ。

その才能が、ときとして人を慢心させる。人間的な成長を阻害し、社会人としての人格形成を妨げる。プロ野球界やサッカー界のようなきらびやかな才能が集まっている場所では、とりわけその懸念が大きい。

先日、元ロッテの主力投手だった小川博容疑者が、強盗殺人の疑いで埼玉県警上尾署に逮捕された。元甲子園球児。青山学院大学を経て1985年にロッテに入団、88年にはパ・リーグの最多奪三振を記録している。93年から99年まではコーチも務めているから、野球人としては順調なコースを歩んだというべきだろう。

それが、2002年に球団を解雇されてからは、坂道を転がるような人生だ。新聞によると、離婚、約1000万円の借金、そして自己破産。その後も生活は立て直せず、ヤミ金融から80万円を借金し、ついに勤務先の女性従業員を殺害したという。

その理由は、利子として返済を迫られた3万円を、この女性に用立ててくれと頼んだのに、断られたからと伝えられる。悲惨な話だ。

多分、彼にも野球の天才ともてはやされ、郷土の英雄としてちやほやされた時代があったのだろう。僕が昔、天分にあふれた伊勢君を見ていたような羨望のまなざしで、彼のことを見ていた同級生や他校の野球仲間も、少なくなかったに違いない。

彼らにとっては、天上の星と仰ぎ見た存在が、3万円の借金を断られて強盗殺人までしてしまう事件との落差は信じられないことだろう。自分の野球人生が汚されてしまったと感じた元野球少年もいるだろう。

けれども、これは現実だ。

プロ野球界がこれまでセカンドキャリアの問題に真剣に取り組んでこなかったことの弊害が、こういう形で表に出たというのは言い過ぎだろうか。そういってしまうと、引退後も善良な社会人として堅実な生活を送っている人に対して失礼だろうが、若くして頂点を極め、けた外れの高給を得たことで、人生を誤った有名人は少なくない。

人生は長い。けれどもスター選手である期間は短い。エースよ、史上最高の強打者よ、ともてはやされて入団した選手が、プロ野球界を離れた瞬間にただの人になる。ちやほやしてくれた世間評価が激変し、鼻にも引っかけられないこともあるだろう。

伊勢君のように、それなりの成功をおさめ、選手生命が終わってからも、コーチや解説者として、次の人生、収入が保証されている人は、ほんの一握りといってもよいだろう。

そういう中で、野球を離れても生きていける社会人としての人格を養う教育をどうするのか。プロ野球界が本気で考え、対策を立てなければならない緊急の課題だと僕は思う。

例えば、選手は入団時に手にする多額の契約金や、フリーエージェントで再契約するときの契約金の一部を拠出し、積み立てる。経営者側もそれに応じた一定の額を拠出し、それを基金として引退後にそれぞれの選手に支給できる仕組みを考えたらどうだろう。

今回の事件を「天上の星」の転落物語に終わらせず、選手たちのこれからを考えるきっかけにしてほしい。すでに、日本サッカー協会やJリーグは、選手層の拡大や指導者の養成などと関連づけて、セカンドキャリアの問題に真剣に取り組んでいる。その取り組みも、大いに参考になるのではないか。




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