| 永井明の「メディカル漂流記」 April 07, 2004 |
韓国漁船と中国漁船
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水産庁取締船「白竜丸」は、日本海から対馬海峡を抜け、東シナ海に入った。
この海域になると、同じ韓国船籍でも、プサンのものよりチェジュ(済州)島から来た漁船が目立ってくる。
左舷に五島列島を見ながら(海図上のことで、実際には陸地は見えませんが)南下すると、今度は中国漁船である。
レーダーで、操業禁止海域すれすれ、境界線上にびっしりと船影が密集しているのがよくわかる。近づいて何隻か現認(船名などを肉眼で確認する)するが、露骨な違反はないようだ。
今航海では遭遇しなかったが、さらに南下すると台湾漁船の出現という案配になる。
北は日本海に浮かぶ孤島、竹島から南は尖閣列島ぐらいまでが白竜丸の守備範囲ということだ。その広い海域を移動しながら取締り活動をするわけである。無論、白竜丸だけですべてをカバーできるわけではない。水産庁所属の何隻かの取締船が、期間、海域を調整しながら、隙間なく違反操業を監視しているのである。
もっとも、政治的に微妙な問題を抱えている領土問題に関しては、水産庁の取締船が直接関与することはないようだ(海上保安庁の管轄。水産庁の取締船に火器銃器は装備されていない)。
「外航で、たとえば太平洋のど真ん中を走っているときは、そんなこと思わないんですが、こうした近海の取締り航海だと、けっこうオカが恋しくなりますよ。だって、少し走れば対馬や五島の港に入れるし、日本海で夜中に韓国漁船を追っかけているときなど、プサンの街の灯がぼわーっと見えたりしますしね」
ベテランクルーのつぶやきである。ぼくなどはオカへの不適応感が強くて、いつまでも船に乗っていたいと思っている口だが、彼の気分も、なんとなくわかるような気がする。おそらく、海が道楽のぼくと海が仕事の彼ら、アマチュアとプロの違いということなのだろう。
それはともかく、近づいて現認しようとしているのが韓国漁船なのか中国漁船かは、その船体に記されている文字を見なくても、遠目からでもすぐわかる。韓国漁船のほとんどは白っぽい船体をしているが、中国の漁船はいかにも鉄々と、茶色っぽく見えるのである。
「たしかに、そうですね。韓国の小さな漁船は日本のそれと同じようにだいたいはFRP製ですが、中国の漁船は鉄製が多いですからね」
ワッチ中の一等航海士がそう教えてくれた。
小型船舶、とりわけ沿岸近海漁業に携わっている船はFRP(=Fiber Reinforced Plastics)という複合材料で作られることが多いらしい。それで白が基調になる。
ただ、鉄製の船だからといって、いかにも鉄々と見えるわけではない。これまで世界各地、方々の港に停泊したが、ぼくが乗った水産庁の船はもちろん、日本の船は総じて手入れがいい。船体に鉄錆が少しでも出ると、すぐにその部分を削り(たしか「錆打ち」と言っていました)、新しい塗料で修復する。生の鉄を感じさせない。FRP製漁船のメンテナンスも悪くない。
一方、中国漁船の場合、「とりあえず浮いていて、動いてくれればそれでいい」という感じである。ところどころに鉄錆が浮いているのではなく、「おー、船全体が錆。鉄々だ」という船が少なくなかった。
誤解なきよう。ぼくはべつに「やーい中国漁船、えんがちょ」という話をしたいわけではない。ぼく自身、不精横着者で、あまりきちんときれいな状態だとかえって落ち着かないほうだ。
鉄々中国漁船を見ながら「日本人というのは、潔癖症なところがあるのかしらん。それにしては、社会や政治がずいぶんと不潔だが……」。そんなことを感じていたということだ。
乗り物は丹念に手入れしなければ劣化も早い。とりわけ海水をいつも浴びている船は、そうである。
もちろん、中国漁船の乗組員も、そんなことは十分承知しているはずだ。だが、現実問題として、そこまで手が、すなわち金が回らないということなのだろう。
そんな彼らが、違反ぎりぎりのところで漁をする。その状況によって多寡はあるようだが、明らかな違反操業の罰金は四百万円だという。現在の中国の漁師にとってかなりの高額だといえるだろう。そんなリスクを冒すだけの利益があるのだろうか。いちかばちかという思いなのだろうか。しかも、韓国漁船のほうがイタチごっこに慣れている感じでけっこうしたたか。中国漁船のほうはまだ、どこかガードが甘いという印象なのだ。
先週、韓国漁船が時化のときを狙って日本の200海里内に入ってくるという話をしたが、同様の複雑な思いがした。
しかしまあ、いずれにせよ、十日、二週間ぐらい乗っていただけでは、漁業取締船業務の「おおよそ」がわかる程度。その真の実態に迫りようもない。
だから、やっぱもう一度……けっきょくぼくは、いかにして船に潜りこむか。それしか考えていないらしい。いやはや、困ったお船追っかけオヤジである。


どちらが、韓国船? 中国船?
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