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日本@世界
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船橋洋一
本社コラムニスト
船橋洋一
船橋洋一
 
予防安全保障という陰徳

 首相の諮問機関の「安全保障と防衛力に関する懇談会」(荒木浩座長)がこのほど発表した報告書は「世界の安全保障環境はこれまでと比較にならないほど複雑になっている」とし、「一方の極に非国家主体が引き起こしかねない、想像を絶するテロリスト攻撃があり、他方の極にきわめて古典的な戦争の可能性がある。その中間にありとあらゆる組み合わせによる危険が存在している」と指摘する。

 私たちは「ありとあらゆる組み合わせ」の脅威に備えなければならない。テロ、大量破壊兵器などの「新たな脅威」、とくにその両者が結びついた時の恐ろしさは言うまでもない。破綻(はたん)国家では住民が国家の責任である治安やインフラを与えられず、難民や流民となる脅威が広がっている。人間の安全保障のために国際社会の介入の権利が叫ばれるゆえんだ。

 中国、インドの石油、ガス需要の爆発は世界のエネルギー、環境に巨大な影響を与え始めている。一方で、今後に予想される原発の世界的増設は核物資管理リスクを増大させる。インターネットをはじめとする情報通信革命はサイバー戦争の危険とともに、個人情報の電子データ流出やアイデンティティーの盗用、偽造を生み出している。

 日本の場合、中国に近接していることから酸性雨に加えて将来、三峡ダムなどによる環境リスクが高まる危険がある。地震にしても、行政の把握力、行動力が衰えている上に少子高齢化でコミュニティーの災害防衛力が弱まっている。

 まだある。東京海上日動リスクコンサルティングの指田朝久主席研究員は、次の三つのメガ脅威を例示的に挙げた。

(1)感染症。

 エイズ、新型肺炎SARS、鳥インフルエンザなどで感染症の恐ろしさを私たちは思い知らされたところだ。

 「こういう脅威の場合、世界規模で何十万人の単位で犠牲者が出る可能性が強い。そうなると、生命保険会社はやっていけなくなる恐れもある」

 1918、19年のスペイン風邪では、世界で2千万から2500万人が死んだとみられている。

(2)地球温暖化。

 いまのまま温暖化が進むと、世界の生態系を変えるおそれが強い。中でも、食糧需給に与える影響は計りしれない。「小麦はアメリカからカナダ、コメは本州から北海道へという風に産地が北へ移動し、それにともなって人口移動、社会変動、紛争が起こる可能性が強い」

(3)米国の一極構造。

 米国は情報(インテリジェンス)資源で圧倒的な力を持っている。国際社会はそれに対する独立した対抗評価を示す拮抗(きっこう)力に欠けている。「こうした構造は国際政治における“風評災害”を引き起こしやすい」。すでにその危険は今回のイラク戦争で明らかになった。

 このように脅威が拡散し、複雑になると、国家間の抑止や国境での防衛という概念だけでは十分に対応できない。予防の考え方を導入することが必要だ。

 ところが、それがなかなか難しい。米政府は、米国本土に対する大量破壊兵器テロ攻撃は、船舶、港湾経由の可能性がもっとも高いと警告しているにもかかわらず「過去3年間に米国の361の商業港の対テロ強化のために支出した金額は、イラクでの戦闘の3日分にすぎない」とスティーブン・フリン米外交問題評議会上級研究員は指摘している。(「無視される本土前線」、『フォーリン・アフェアーズ』誌=9、10月号)

 懇談会報告書は、「国際的安全保障環境の改善による脅威の予防」を「国際貢献というやや第三者的ニュアンス」で語るのではなく「日本の安全保障に直結する任務」と見なすべきであると説いている。卓見である。

 予防を抑止、防衛と並んで安全保障の中核の概念として位置づける必要がある。予防外交という言葉は根付いてきたが、予防安全保障という分野をもっと探究するべきだろう。

 もっとも、予防には一つ問題がある。政治家が飛びつきにくいことだ。

 予防外交が成功すれば、悲劇を回避することができる。回避、つまり何も起こらなかったということだ。何も起こらなかったことはあまり報道されないし、感謝もされにくい。要するに、政治的に得点になりにくいのだ。しかし、大都市化、巨大技術化、世界化によって、予防に失敗したときの人的、物的被害はけた外れに大きくなってきた。発想を転換する時だ。

 予防とは、言ってみれば陰徳を積む行為のようなものかもしれない。しかし、いざというときモノをいうのは陰徳ではないのか。

(2004/10/21)








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