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日本@世界
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船橋洋一
本社コラムニスト
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アルマゲドン選挙

 夕暮れ時、小春日和の陽(ひ)の名残が惜しくて、行き先のカーネギー国際平和財団のあるマサチューセッツ通りをしばらく散歩した。

 途中、「投票しました」のステッカーを胸に着けた人々に何人も出会った。投票した後、投票所でもらう。まだしていない人に、お忘れなく、という選管の督促キャンペーンでもある。

 ジェシカ・マシューズ同財団理事長は言った。

 「いま、オハイオの友達から電話が入ったけど、あちらは大雨ですって。投票まで4時間、行列に並んだそうよ。誰一人、途中で帰らなかったって。こっちもあっちもこうなるともう意地ね」

 共和党、民主党ともそれこそ意地の張り合いで、米国は真っ二つだ。最終選挙結果が出ないまま、当方も朝日新聞アメリカ総局で、テレビを見ながら徹夜と相成った。

 ギャラップ調査(03年1月)によれば、米国民の45.5%が共和党支持、45.2%が民主党支持と答えている。

 二大政党制もここまで来ると、選挙をするたびに、ボクシングのクリンチのようにもつれてしまう。

 今年の大統領選挙は、ブッシュ政権のテロとイラクに対する政策をめぐる国民投票の様相を呈したが、この3月の段階で、有権者の90%がどちらに投票するかすでに決めている。党派別にきれいに二分されてしまっている。

 その底には、妊娠中絶、ゲイ、銃などの「価値観」をめぐる両党支持者の間の深い断絶がある。米国の「文化戦争」と言われるゆえんである。今回、ブッシュ大統領はこれらの問題でブッシュ共和党を支持する宗教右翼などの支持基盤を掘り起こして、総得票数で350万票以上、ケリー候補に差を付けた。

 いつの時代も選挙は、銃弾を使わない、言葉とイメージの戦争である。しかし、今年の大統領選挙ほど中傷が飛び交い、ゲリラ戦争、いやテロ戦争のような陰惨な戦いとなった例も珍しい。

 双方の支持者とも、この選挙に負ければこの世の終わり、といった思い詰めた気分に捕らわれた。とりわけ若者の間でそうした感情が高ぶったようだ。世論調査会社、ゾグビーのジョン・ゾグビー会長は、今年の大統領選挙を「アルマゲドン選挙」と名付けた。「地球最終戦争」だというのである。

 こうなると、何事も党派的にささくれ立ってくる。

 共和党の有力者である友人からこんな話を聞いた。

 彼の所属する中西部のあるゴルフクラブは会員50人どまりという超名門クラブだが、この間、昼食の時、隣のテーブルで二人の紳士が大声で怒鳴り合いを始めた。チェイニー副大統領の評価をめぐる議論が感情的になり、もう止まらない。

 「一人はハーバード大学、もう一人はブラウン大学の卒業で、二人ともれっきとした有力企業の経営陣。それがこのざまだ。クラブの歴史始まって以来の不祥事だった」

 タイム誌は、この選挙を「内戦」(uncivil war)と形容した。内戦は本来civil warだが、civil(文明)どころではない、uncivil(野蛮)そのものだ、というのだ。

 問題は、負けても負けを認めない往生際の悪さが常態化してしまうことだ。同時に、勝ったら、勝てば官軍といったおごった態度を取ることになりがちだ。それから、投票日と投票方式を散乱させ、投票規律を損なうこと、ひいては有権者ではなく裁判官が投票結果を決めてしまうことだ。

 それは選挙の政治的カタルシス効果をそいでしまう。つまり、台風一過のあのすがすがしさ、浄化作用といってもいい、それを失ってしまう。

 こんなことでは、米国の表看板の民主主義が泣く。

 深刻なのは、内外ともに、米国の統治と政策の正統性に疑問符がつけられることである。ブッシュ政権は前回、最高裁の1票差の表決で生まれた。その政権が、大義なきイラク戦争を行ったことが、ブッシュ政権に対する不信感と反感の根っこにある。

 今回再び、選挙結果の正統性が疑われるようだと、米国の威信はさらに傷つくだろう。

 「選挙とは、投票者ではなく、投票集計者が決めるものだ」とうそぶいたのはスターリンである。

 共産党一党独裁下の選挙なら、それもうなずけるところだが、まさか米国がその同類に零落しようとは……

 今頃、地下のスターリンが高笑いしているかもしれない。

(2004/11/04)








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