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地鳴りの音を聞いたのだと思う。大草原の町々と村々の、声なき大衆の、それもキリスト教徒の、下からの政治的雄叫(おたけ)びだったに違いない。その怒声と歓声に包まれて、ブッシュは再選された。
ブッシュ共和党体制が立ち現れた。それは1896年のマッキンレー共和党の台頭から1932年のフランクリン・ルーズベルト民主党の出現まで1世代以上続いたような共和党の長期支配をもたらすかもしれないとの見方も出始めている。
ただ、ブッシュ政権の王朝的性格、米一極構造下での帝国的世界秩序観、キリスト教的価値観と情念の横溢(おういつ)を考えると、体制よりむしろ天下と形容した方がいいかもしれない。ブッシュ共和党天下、ブッシュ天下の登場である。
米国を真っ二つに引き裂いた選挙だっただけに、ホワイトハウスは、団結と癒やしを国民に呼びかけている。
わたしたちは共和党員だけでなく全国民に手の届く政治をやります。教育改革をはじめ一緒に力を合わせて進めましょう、といった按配(あんばい)だ。
1期目の対ソ軍拡から一転、2期目は軍縮に切り替え、冷戦終焉(しゅうえん)の地ならしをしたレーガン政権のひそみに倣うべきだと主張する共和党穏健派もいる。
しかし、こうした呼びかけを額面通りに受け取る民主党員は少ない。
以下のような理由からだ。
* ブッシュは、史上最高の5960万票を得票し350万票の差をつけたことで「正統性」を手にした。2期目は多数の負託に応えることが指導者の務めとの論理で押すだろう。
* キリスト教的価値観を前面に出し、宗教右翼を動員した選挙戦術を成功させた。その成功例を金科玉条とし、2年後の中間選挙を戦うだろう。
* 支持者、とりわけ宗教右翼にお返ししなければならない。最高裁判事任命で彼らを満足させる右寄り人事を断行するだろう。
超党派の政治と外交は、ブッシュ大統領がその気になればできる。しかし、内政では宗教右翼、外交ではネオコン(新保守派)が、立ちはだかるだろう。
マルクスは経済を下部構造、政治、宗教を上部構造と位置づけたが、ブッシュ天下は宗教を下部構造、政治を上部構造とする政治地殻を特徴とする。
こうした宗教と信念の政治にゲアリー・ハート元上院議員(民主党)は警告を発している。
「米国では、信仰を吐露することが公職に立候補する際の条件になりつつある。こうしたことは国家と宗教を癒着させ、鼻持ちならない偽善をもたらす」(ニューヨーク・タイムズ紙8日付)
加えて、米国型民主主義の普遍性に対する信念というイデオロギーの危険がある。ネオコン主導のイラクを含む中東全域の民主化構想がその典型だ。
ブッシュ共和党体制のそうしたラジカリズム(急進主義)に懸念を表明したのはジョン・ハムレ米戦略国際問題研究所(CSIS)理事長である。
「民主党が現状維持政党であるのに対して、ブッシュ共和党は現状打破の急進主義に傾斜している。外交もそうだ。これまで使いでのあった機構を放り捨て、有志連合を推進する」
それは、9・11後の対テロ戦争とイラク戦争で国連とNATO(北大西洋条約機構)を軽んじた態度に表れている。
もっとも、政治は結局は結果である。とりわけ、イラク再建という、天上ならぬ地上の結果だ。イラクがさらに泥沼化すれば、ブッシュ天下はひび割れる。
しかし、そうであれば国民の不安感はさらに募る。そうなった場合、米国民は、より確かな価値、なかでも宗教にしがみつこうとするかもしれない。今回の選挙はまさにそうした力学を映し出したのではなかったか。
恐らく、ネオコン勢力は退潮に向かうだろう。だが、宗教右翼はこれまで以上にブッシュ天下支配の岩盤となり、米国は内向きになっていくのではないか。
もう一つ、財政赤字と経常赤字がこのまま増大するようだと、ブッシュ天下は揺らぐ。ベトナム戦争のツケとしてのドル・ショック(1971年、ニクソン政権)、対ソ軍拡の果てのプラザ合意(1985年、レーガン政権)のような荒療治を迫られるかもしれない。ネオコンの「ユートピア的、イデオロギー的外交政策も、カネがかかりすぎるという面からブレーキがかかるだろう」とリチャード・ルーガー上院外交委員長(共和党)は私に語った。
ブッシュ共和党天下といえども、下部構造はやはり地上であり経済である。イデオロギーでも宗教でもない。そこを間違うと天下は大いに乱れる。
(2004/11/11)
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