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船橋洋一
本社コラムニスト
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船橋洋一
 
北朝鮮 不安定シナリオ

 金正日労働党総書記の肖像画が一部の場所から、撤去されているという。究極の個人崇拝の国の指導者の肖像画だから、クリーニングに出していますといった話ではない。この国に異変が起こっているのではないか、と疑ってみるのが常識だ。

 しかし、盧武鉉政権は、そのようには見ない。鄭東泳・統一相は「北朝鮮のテレビなどに出る各種の公共機関の様子では、肖像画はそのままになっている」「まったく異常な兆候は認められない」と述べている。

 欧米有力国の大使も似たような見方を示した上で「北朝鮮の不安定シナリオに対して準備を始めているが、あくまでシナリオの話であり北朝鮮の体制崩壊を見越してのことではない」と、そこは慎重に言葉を選んだ。

 もっとも、政府でも現場の北朝鮮分析担当のプロは体制についてより厳しいとらえ方をした。そのうちの一人は「政権の基盤が揺らぎ始めた最初の兆しかも知れない。インフレ問題、拉致問題、後継者問題がその背景にあるのではないか」と語った。02年夏の価格統制撤廃に触発されたインフレと配給制の廃止、秋の小泉訪朝と日朝正常化協議の過程での拉致の告白と謝罪、それから後継者指名の地ならしをするための潜在的ライバルの放逐、そうしたことが政権基盤、なかでも労働党、軍部の中に混乱、反発をもたらしていると見るのだ。

 元外相の一人は、「中国が北朝鮮の脱北軍幹部とひそかに関係を持ち始めているという情報がある。中国は北朝鮮の不安定シナリオを見据えているのではないか」と多少の推測を交えて、語った。もし事実とすると、脱北者は送りかえすのが中国の方針だから、軍幹部に対する例外扱いは際どい意味を持ちうる。

 権力中枢はともかく、底辺では異変が起こりつつある。それを物語っているのが、脱北者状況の変化である。中国への脱北者救援のNGO活動をしている文國韓氏は、次のような変化を挙げた。

 ▽かつては脱北者は一人で決行するケースが多かったが、いまは家族全員で逃げ出すケースが増えている。

 ▽脱北者はこれまで中国との国境近くの咸鏡北道の人々が多かったが、いまは各地から流れてくる。

 ▽最近は、労働党の党員やさらには幹部の脱北者が増えている。

 前述の北朝鮮分析プロは、もう一つ付け加えた。「よりよい生活と機会を求めて、韓国に行きたいという脱北者が最近は増えている。韓国が豊かな国であるという情報がかなりの程度、浸透している証拠だ」

 これからはさらに、米国の「北朝鮮人権法」が脱北を促すことになるかもしれない。

 この法律は、北朝鮮からの脱北者の人権を守るため、脱北者の救援活動をしているNGOを財政的に支援し、北朝鮮向けに朝鮮語の自由アジア放送を流すことなどを定めている。先月、大統領が署名、発効した。

 援助額は2000万ドル程度と限られている。それが直ちに脱北を加速することにはならないだろうが、文氏は、脱北者の中にはすでにこの法律のことを知っている人々がいると言った。国境地帯の住民は携帯電話を用いて、中国から最新情報を手に入れている。情報は一般大衆にも流れ込みつつある。「米国がようやく脱北者を受け入れてくれる兆しが見え始めた」との文氏の期待は、脱北者の期待をも反映しているに違いない。

 いまは、北朝鮮の不安定シナリオに対する対応策を練る時ではないのだろう。乱れは下では泡立ってきたものの、権力中枢を騒ぎ立たせるまでは至っていない。沸点にはほど遠い。ただ、食糧配給を廃止され、窮乏する中間幹部層の不満と怨念(おんねん)が沸き立ってくるようだと、不安定シナリオが現実味を帯びるかもしれない。

 それが核問題の行方にどう影響するか。

 北朝鮮の核問題の解決を阻む最大の壁は、北朝鮮が核廃棄という「戦略的決断」を、米国が北朝鮮との平和共存という「戦略的決定」をできないところにある。米国のホンネは、リビアを核廃棄に追い込んだリビア・モデルの北朝鮮への適用であり、独裁者との一発取引である。

 しかし、不安定シナリオが現実化した場合、金総書記の状況把握力と決定力にも疑問符がつきかねない。核問題の解決はさらに難しくなるかもしれない。

 軍事衝突、核保有、アナーキーの3大悪夢だけでも頭が痛くなるところだが、そのうえ不安定シナリオがかぶされば、みんなもう不眠状態に置かれてしまうこと請け合いだ。当分、肖像画の行方から目が離せない。 (2004/11/25)








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