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「国連は、人間社会を天国に連れて行くために作られたのではない。地獄に堕(お)ちるのを防ぐために作られたのだ」
国連PKO(平和維持活動)生みの親で第2代国連事務総長だったダグ・ハマーショルドは、国連の役割についてそのように形容したものである。
国連が人間社会の地獄行きを防いだ例は多い。ごく少数を除いて国家による他国の侵略を起こさせなかった。脱植民地化と民主化も進んだ。国連の存在がこうした国際環境の変化を直接生みだしたものではないとしても、それを促したことは間違いない。
一方、地獄に堕ちた例も多い。とりわけ冷戦後、民族浄化とジェノサイド(集団殺害)を防げなかった。ボスニアとルワンダがその典型である。テロ、大量破壊兵器、破綻(はたん)国家が新たな脅威として立ち現れたが、国連の取り組みは不十分である。イラク危機に当たっては、米国の一国主義的先制攻撃論に有効な対案を示すことが出来ず、国連も米国も傷ついた。
アナン国連事務総長が設けたハイレベル諮問委員会はこのほど発表した国連改革報告書の中で世界が直面するさまざまな脅威の「相互連関性」を指摘し、それに取り組むには軍事だけでなく経済を含む「包括的な戦略」が必要であると提言した。
安保理改革はそのために必要な機構改革である。日本は安保理常任理事国入りを希望し、ドイツ、インド、ブラジルとともに運動を展開している。
だが、これらの国々が常任理事国になれば、何が違うのか、何が変わるのか。
ニューヨークで会った国連外交プロのドイツの外交官は、「小国」と「非核国」の利害と視点の注入の2点を強調した。
〈小国の多くは、改革とは特権とパワーの組み替えに過ぎないと疑っている。そうではなく、安保理の説明責任を向上させる。現在95%が非公開である安保理での議論をもっと透明にする〉
〈現在の常任理事国はすべて核保有国であり、そのことが非核国の利害と視点を反映されにくいものにしている。非核国の立場から軍縮を進める〉
日独などの常任理事国入りにはそうした「正当性」がある、それは国連の「正統性」の回復に役立つという論理である。
軍縮、とくに核軍縮の視点は重要である。ただ、現在の常任理事国のほとんどが、核を国際政治におけるパワーと地位の究極の象徴とみなす「核信仰」に毒されているだけに厄介だ。この面で、日本が果たすべき役割は大きい。核不拡散と核軍縮を同時に進めてこそ「核信仰」打破も可能になる。国連60周年とヒロシマ・ナガサキ60周年と響き合わせたいものだ。
日本のもう一つの大きな役割は、敗戦の荒廃から立ち直ったその後の国づくりと平和国家の建設、国際社会への再参画の経験を現在の国際社会の挑戦に応える形で世界と分かち合うことにあるだろう。日本は、紛争のさなかに介入して、それを封じ込める戦闘行為には参画できないにしても、紛争後の平和定着、さらに紛争予防の平和環境づくりには貢献できる。世界民生大国(グローバル・シビリアン・パワー)としての力は、カンボジア(地雷撤去)、東ティモール(インフラ整備)、アフガニスタン(武器回収)などで実証済みだ。
国力からも分担金負担からも、日本は常任理事国になって当たり前という独りよがりと慢心は慎まなければならない。
PKOは現在ゴラン高原への派遣要員45人(世界59位)、ODA(政府の途上国援助)予算は5年連続削減、歴史問題で近隣諸国と不正常な関係、対米追随、そうしたもう一つの日本像も世界には厳として存在する。マーク・ブラウン国連開発計画総裁は「日本はODAを減らし続けていながら、常任理事国入りを求めている。国際社会には理解しがたい現象だ」と私に語った。
もっと日本の構想を世界に語り、伝えよう。例えば、98年からエチオピアで進めている井戸掘り・掘り方訓練事業。戦後の日本の農村部の簡易水道建設が農家の主婦の水くみ時間を大幅に節約させた経験が下敷きにある。1日平均6時間のアフリカの女性の水くみ時間を劇的に短縮させている。
国づくり支援に向けての日本の使命と役割をより鮮明にアピールすることが大切だ。
安保理常任理事国入り外交は、日本が世界の人々の理解と共感をどこまで勝ち得ているかの試金石にほかならない。それは世界民生大国としての自画像、つまり日本の戦後経験の意味と意義、その継承のあり方をも問う試みであるのだ。
(2004/12/16)
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