asahi.com
天気  辞書  地図  サイト案内  Top30 
サイト内 WEB
コラム 社 会 スポーツ 経 済 政 治 国 際 サイエンス 文化・芸能 ENGLISH 
  >AIC  >天声人語  >日本@世界  >ポリティカにっぽん  >風考計 
     
 home >コラム >船橋洋一「日本@世界」   

日本@世界
バックナンバーEnglish
世界ブリーフィングへ
船橋洋一
本社コラムニスト
船橋洋一
船橋洋一
 
北朝鮮不安定シナリオII

 北朝鮮の金正日労働党総書記の息子の金正男が先月、オーストリアを旅行した際、何者かに暗殺されかかったが、同国当局が事前に察知し、犯行を防いだ。金正日の他の息子への権力継承を望む勢力が関与していたのではないか、と韓国の聯合ニュースが伝えた。

 日本政府は「訪問したことは確認しているが、そういう事実があったとは認識していない」(伊藤直樹外務省北東アジア課長)と慎重な見方をしている。ただ、このところ、この種の異変報道が増えてきた。

 金正日には、元俳優の成恵琳との間に生まれた金正男と元舞踊家の高英姫との間の金正哲、金正雲の3人の息子がいる。実の妹の夫、張成沢は今年初め、失脚した。張は金正男と親しいとされ、張の失脚は後継者をめぐる権力闘争の幕開けではないかと見られている。

 北朝鮮の不安定シナリオがにわかに語られるようになったが、米朝間の心理戦の一環といったうがった見方もある。

 米国は、北朝鮮の核問題の軍事解決が難しいため、「柔らかい体制転換」論に関心を持ち始めている。北朝鮮の異変を大げさに言い立て、外からではなく中から体制を崩していこうと画策している……。

 北朝鮮は、「体制引き締め」論を改めて使っている。国内の経済社会危機が深まるにつれ、危ない、危ない、と国民の危機感をあおり、体制の延命を図ろうともがいている……。

 しかし、後継者問題が絡んでいるようだと、心理戦では説明しにくい。

 独裁国家の泣きどころは権力継承である。ソ連の歴史を通じて当初計画通りに最高権力を手にしたものは誰一人いなかった。すべて権力闘争を経て、ポストを勝ち取った。計画体制も権力継承は計画できない。

 金日成は世襲による中央突破を図った。1974年、息子の金正日を後継者に内定した。「偉大なる首領」金日成の絶大なカリスマのおかげである。それから30年。息子たちは自分が後継者に選ばれた年頃に、自分もその頃の父親の年格好になった。金正日が子供たちに「親の七光りに頼ってはいけない」と諭したといった断片的な情報が流れたことがあるが、子供たちに帝王学を施している風はない。

 いくつかの理由が考えられる。

 もし、そんなことをすれば、自らはたちまちにしてレーム・ダック(窓際)になってしまう。誰もが次の権力者になびくからである。それが怖いので、なかなか言い出せない。

 金正日は金日成の正妻の子供だったが、金正日の息子たちはそうではない。「誰々の子」と高らかにうたいにくい後継者をデビューさせるのは難しい。

 それを口実に中国が内政に介入してくる危険もある。金日成から金正日に世襲した際、「社会主義に世襲はありえない」として中国は反対した。

 ひょっとして、世襲は割に合わないと金正日は考えているのかもしれない。経済も社会も乱れに乱れている。散乱的な経済自由化は、社会秩序を崩しつつある。例えば、金日成バッジだ。どれも同じように見えるが、実は階級・階層によって異なる。しかし、いまではカネさえ出せば、上層部用のバッジを買うことができるという。社会秩序は揺らぐ。

 もっと揺らいでいるのが、人々の心の中ではないか。北朝鮮で人道支援活動をしている知人のNGO(非政府組織)活動家は、ひそかにキリスト教に帰依する人々が多いことにびっくりしたと語っていた。

 「北朝鮮の軍首脳がこのほど金正日に対して、後継者を世襲とするのは控えた方が賢明かもしれません、と恐る恐る進言した。これに対して、金正日は、世襲にはしない。ただ、日本の天皇のように国家の象徴という存在はどうか、と述べた」

 事情に通じた韓国の外交官の話だ。「あくまで噂(うわさ)だ」と断った上である。どうやら北朝鮮で流れている噂らしい。

 しかし、これほど疲弊、荒廃した体制をそれなりに安定させてきたのは、金正日が一手に権力を握ってきたからである。

 姜成山元首相の女婿で、10年前に韓国に亡命した康明道は「金正日(体制)が崩壊したら、北朝鮮内部は大混乱に陥るだろう。それは、韓国侵略を誘発するかもしれない。逆説的かもしれないが、金正日が戦争を予防する役割を果たしている」と述べたことがある。

 金正日体制の崩壊間近との観測がはやっていた頃のことだ。

 ここでは集団指導制も分権も成り立たない。独裁以外ありえない。しかし、世襲は難しい。かくして、金正日後の体制安定のシナリオは描けない。(敬称略) (2004/12/23)








| 社会 | スポーツ | 経済 | 政治 | 国際 | サイエンス | 文化・芸能 | ENGLISH |
GoToHome ニュースの詳細は朝日新聞へどうぞ。購読の申し込みはインターネットでもできます。 GoUpToThisPage
asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
| 著作権 | リンク | プライバシー | 広告掲載と注意点 | アサヒ・コムから | 朝日新聞社から | 問い合わせ |
Copyright Asahi Shimbun. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission