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早野透
本社コラムニスト
早野透
早野透
 
科学のロマンか効率化係数か

 小泉さんをマラソンランナーと見れば、折り返し点を過ぎて復路にさしかかったところか。ゴールをめざしてここからが苦しい。せんだっての高橋尚子さんのように急に失速することもある。

 復路のしょっぱなの苦しみはイラク問題である。自衛隊をほんとに派遣すべきかどうか、国論の分裂ともいえる状況の中で小泉さんが決断するほかはない。日本の運命を背負って、だれのせいにするわけにもいかない。

 小泉政権の本来のミッションともいうべき構造改革も胸突き八丁である。道路公団、年金改革、地方財政改革。こちらも年内に仕上げなければならない。ただ予算を削れ、給付を削れと言うだけで済むはずはなく、よりよく機能する設計図をつくらなければならないのである。

 国立大学法人化をめぐる政府と大学の間の紛争も、そういう難問の一つである。来年4月からは東大も京大も国立大学はどこも一つの法人になって、教授はもはや国家公務員ではなくなるなんて知っていましたか?

 そればかりでない、学長はいわば社長になって国からの運営費交付金と授業料、産学協同研究の企業からの寄付、大学発ベンチャーなどで資金を調達し、一つの経営体として頑張れというのだから、もう昔の象牙(ぞうげ)の塔という感じじゃなくなるらしい。

 まあ大学も少しむだを省いて世間並みのビジネスを学びなさいというのはわかる。しかしここからが問題である。従って、国からの運営費交付金にはこれから「効率化係数」という数字を掛けて毎年少しずつ減らしていきますよと文部科学省、財務省が画策しているというのである。

 こりゃ一大事、国立大学法人法が成立したとき、これまでの公費投入額を減らさないという国会の付帯決議もあったはずなのに、仮に1%の効率化係数だと5年で小さな国立大学を20以上つぶすほどの予算削減に相当するというので、2日の朝日新聞朝刊オピニオン欄の「私の視点」で佐々木毅東大学長が断固反対の声をあげたわけである。

 「新しい家の設計図を用意もせずに古い家を壊そうとしている」と小泉改革に批判的な神野直彦東大経済学部長から話を聞いた。

 「こつこつと真理を追い求めて、突然大きな発見につながるということがあるでしょう。それをすぐ役にたたないからと基礎研究の予算を削るということにならないか。とくに自然科学系の人たちが心配しているんですよ」

 神野教授のもとに理学部から寄せられた「科学における望外の発見」の例。

 ▽フレミングによるペニシリンの発見。自分の涙が培養皿に落ちて細菌が死んだ。なぜだろうと研究して6年後、カビが細菌を殺すことをみつけた。偶然の発見は研究の継続があったから。

 ▽ガルバーニがカエルの足の痙攣(けいれん)から電流の存在を発見して以来、エルステッド、ファラデー、マックスウェルと電磁気学の成立は偶然の連続。しかし彼らも、今日の携帯電話の隆盛を生み出すとは想像できなかっただろう。

 ▽レントゲンのエックス線の発見はあまりに有名。ペンジアスとウィルソンによるビッグバンの証拠の発見。ベクレルの人工放射能の発見。プランケットの発見したテフロンが焦げ付かないフライパン、宇宙服、人工心臓の弁にまで使われるとは。「役に立たない研究」の「予期せぬ出来事」からの「驚くべき成果」は枚挙にいとまがない。

 そういえば少年のころ、こんな科学のロマンを読んで胸躍らせたこともあったなあ。

 さて小泉改革には、中身はともあれ予算削減を数字で示せという嫌いがあって、例えば地方への補助金の1兆円削減のお達しも各省庁の押し付け合いで大もめである。国立大学法人の「効率化係数」もいかにもお役人の数字の自動強制装置みたいで、こんなことでいいのか。

 「効率化係数」は授業料の値上げに飛び火することにならないか。国立大と私学と同じにならないか。貧しい家庭の子弟の学問の道を閉ざすことにならないか。日本の底力を失わせないか。

 小泉改革のゴールは「効率化係数」ではなく、国家百年の計であってほしい。

(2003/12/09)








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