ブッシュ氏の再選が決まったらイラクで米軍の大攻勢があるかもしれないと心配しているんですよ、とかねて日本外務省幹部から聞いてはいたが、それがこんどのファルージャ掃討作戦なのか。住民を追い出しての非常事態宣言はただごとではない。
ブッシュ氏かケリー氏か、米国を二分した大統領選挙でブッシュ氏が勝利した。率直に言って、やれやれあと4年もブッシュ政権が続くのかと私は二日酔いの気分である。昨日の酒が残って頭がずきずきして胸がむかむかする、あの気分である。
フランスのシラク大統領が祝電を送った。「フランスと個人の名において熱烈なお祝いを表明する」というのは本心なのかね、外交辞令というのも大変なものですね。中国の胡錦涛主席も「あなたとともに建設的な協力関係を発展させ……」と祝電を打っている。いやはや国益というゲームは気色が悪い。せめて新聞記者である私は本心を言わせていただく。
人気の伝記作家キティ・ケリーが書いた「ブッシュ・ファミリー」「ブッシュ・ダイナスティ」(ランダムハウス講談社)という2巻の新刊を読んでみる。祖父プレスコット上院議員、父ジョージ元大統領、子ジョージ現大統領の共和党3代100年の歴史が興味深い。
米国史でアダムス父子に次いで2度目の父子大統領になったこと、今度のブッシュ再選でいわば「政治王朝」になること、3代そろってのエール大学閥、プレスコットは金融で父ジョージは石油で資産をつくり政界進出したこと、キリスト教道徳に彩られていること、それに反する「知られたくないこと」も数々あって、それを隠し続けた虚飾の歴史でもあったことがふんだんに語られている。
これを読むと、こんどのブッシュ再選は、妊娠中絶、同性結婚、幹細胞研究(治療目的のヒト・クローン)に強く反対する宗教右派の力が押し上げたらしいことがよくわかる。ダーウィンの進化論をも否定する、このあたりのキリスト教原理主義の感覚は日本ではわからないところがあるが、宗教が集票と結びつく形は日本政治にもあるので想像はつく。
たぶんブッシュ氏の中ではこうした「倫理価値」とイラクに自由と民主主義をもたらすという「政治価値」がダブっているのだろう。西部開拓の領土拡大の使命感を引き継ぐテキサス人気質がブッシュ氏の単独行動主義の源泉であるという指摘もある。
であればこそ、ファルージャの住民が家を焼かれ人を殺され「これが自由と民主主義か」と嘆いても、テロと戦い悪をたたきつぶす、これが善だ、これが正義だと言い切ることもできるのだろう。「偉大な米国は限界がない。選挙は終わった。米国は信頼と信仰とともに前進する」とブッシュ氏の崇高な言葉の、その「前進」がファルージャ掃討ということか。
さて、日本政府の反応はといえば、おおむね「ブッシュ再選歓迎」「日米関係に好影響」といった感じである。ブッシュ氏と以心伝心の小泉首相は「たいしたもんだね。これだけ世界から批判されて国内のマスコミの大批判に耐えてね、指導力を発揮されてたいしたもんだ。見習わなきゃいかん」と言っている。小泉さん、あまり見習わないでほしい、「批判に耐える」のでなく「批判にも耳を傾ける」ことであってほしい。
12月14日の自衛隊のイラク派遣の期限を延長するのかどうか。ある与党幹部からこんな話も聞いた。
「1月にイラクの選挙もあるからすぐには引けないでしょうけれども、何とか自衛隊に被害のないうちに戻したいですね。戦闘をするんじゃない人道復興支援であるわけだし、もともとブッシュ政権を支持する日本の姿勢を示すための象徴的派遣なんですからね。ブッシュさんが再選されれば大きな目的は果たしたといえるでしょう」
ブッシュ氏を大統領にいただくのは米国民の決定するところであってそれをとやかくはいえない。しかし、こちらもいつまでもつきあって深酒するのはいかがなものか。私もこのごろ酒に弱くなって、二日酔いが続くのはそろそろ勘弁してほしい。
(2004/11/09)
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