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ポリティカにっぽん
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早野透
本社コラムニスト
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「ユニセフ最前線」に思うこと

 民主党の衆院議員の井上和雄さんが書いた「ユニセフ最前線−戦争を止めた人間愛」(リベルタ出版)を読んだ。とても面白かった。へえ、こんな体験を積んだ議員もいるんだと感心した。

 井上さんは東大で教育学を学んで、子どものことに携わる仕事に就きたいと思っていた。大学の掲示板で国連児童基金(ユニセフ)の募集を知り、これだと思って志し、曲折を経てインド駐在のユニセフ事務所に採用された。

 赴任したのは、インドの最貧州オリッサ州。日本の本州の3分の1ほどで、そこを1人で担当した。

 がりがりにやせこけた子どもたちが下痢で死んでいく。その治療法を知らせ、子どもの命を奪う6種類の病気のワクチンを与え、ワクチン保存のための冷蔵庫を備え(電気が通じてなかったり電圧が一定しなかったりで大変だ)、トイレをつくり(道ばたですませていたから地下水に染み込む)、インドの官僚主義に苦しみながら子どもたちの命を救いたいと「宣教師のような情熱」で走り回った。

 日本は少子化で苦しんでいるけれども、世界の課題は途上国の人口爆発である。それを抑制するにはどうしたらいいか。たくさん産んでたくさん死なせるよりも乳幼児死亡率を低下させる方が、貧しい家族が一人一人の命の大切さに目覚め、むしろ人口を抑制させるのだそうである。

 井上さんの本はユニセフ職員としての体験記からユニセフの歴史にさかのぼる。子どもの命を奪うのは貧困とともに戦争である。

 第2次大戦後、フーバー元米大統領は「戦争は終わりました。しかし飢餓と伝染病と死が世界中に襲いかかっています。飢餓は子を持つ母親のもとに1日3度ずつ恐怖をもたらしている。それは軍隊より凶暴です」と呼びかけて、後に「ユニセフの父」と呼ばれるようになる。

 ユニセフの初代事務局長モーリス・ペイトは「一日一杯のミルクを世界の子どもたちに」と募金を集めた。そのミルクは敵国だった日本にも供給された。そうか、僕たちの世代が小学校の給食で飲んだ脱脂粉乳はユニセフが送ってくれたものだったんだなあ。貧しい日本の戦後にすくすくと育って無事に大人になれたのも世界からの愛情だったんだなあと思い至る。

 ユニセフの歴史の圧巻は戦争を止めたエピソードだ。エルサルバドルで政府軍とゲリラの戦争が続いて子どもたちへの予防接種ができないので、ユニセフは両軍に働きかけて「予防接種の間の停戦」をさせた。

 3代目事務局長ジェームズ・グラントはスーダンの政府軍と反政府軍に対し、子どもたちへの物資輸送の間の停戦を説得した。写真で見たことのある、頭ばかり大きく肋骨(ろっこつ)が浮きだしおなかが膨れているスーダンの子どもたちが何十万人も、いやそれ以上、救われたことだろう。

 91年の湾岸戦争のときもユニセフはアメリカとイラクを説得して6時間の停戦を約束させ、イラクの子どもたちにワクチンやビスケット、注射器などを送った。そんなことがあったのか、いま再びの戦火の中で、イラクの子どもたちはどうしているのか。

 もう一つ心配なのは北朝鮮の子どもたちだそうである。02年のユニセフなどの調べで、7歳以下の子どもたちの42%が栄養不良、7万人がすぐ病院で手当てしなければ死んでしまう状態だった。であれば北朝鮮政府が不法冷酷だとして仮に経済制裁に至るとしても、子どもたちへの人道支援だけは続けるべきではないかと私には思える。

 日本はユニセフへの拠出額は世界一、ユニセフ親善大使の黒柳徹子さんの活躍は素晴らしい。井上さんは「戦争さえなくなれば、子どもたちは現在の何倍も幸せになれる。人間という愚かな動物はいつになったらこんな愚行をやめることができるだろうか」と書いている。

 21世紀になっても人間は戦争をやめない。しかし一方で気まぐれな慈善ではない、子どもたちには生きる権利があると強い政治意思を持って闘っている人たちもいる。私もそろそろペンを置く前に、戦後の子どもたちの世代として言っておきたい。「戦争を二度とするな」と。

(2004/12/21)








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