asahi.com
天気  辞書  地図  サイト案内  Top30 
サイト内 WEB
コラム 社 会 スポーツ 経 済 政 治 国 際 サイエンス 文化・芸能 ENGLISH 
  >AIC  >天声人語  >日本@世界  >ポリティカにっぽん  >風考計 
     
 home >コラム >若宮啓文「風考計」   

風考計
バックナンバー
若宮啓文
論説主幹
筆者からひとこと
 
日韓の複雑 冬ソナとホタルを結ぶもの

 かつて韓国で見たテレビのコントをいまもときどき思い出す。

 「ウシの子はなあに」と先生。「子ウシ」と生徒が答える。「正解。ではウマの子は」に「子ウマ」。最後に「ニワトリの子は」と聞くのだが、「ひよこ」の答えに、先生は「違う。子ニワトリだ。教科書にそう書いてあるでしょ」。これぞ日本の歪曲(わいきょく)教育、という落ちだった。

 1982年。文部省の検定によって戦前の日本のアジア侵略を「進出」に、韓国の三・一独立運動を「三一暴動」に書き換えさせられた日本の高校歴史教科書が、この国で激しく糾弾されたころのことである。

 来る日も来る日も、テレビや新聞に「歪曲」の言葉が躍った。「日本人お断り」の食堂やタクシーまで現れる。韓国語を学びにソウル留学中だった私は「日本語をしゃべるな」と飲み屋で他人に怒鳴られもした。自国に対する恥ずかしさと、行き過ぎた反日への悔しさと。針のむしろの日々だった。

 あれから20余年。日本では「冬のソナタ」で「韓流」旋風が吹きまくっている。韓国には大相撲が上陸し、安室奈美恵のコンサートが大盛況だった。サッカーW杯共催の成功が大きかったのは疑いない。「シュリ」などの韓国映画が次々に日本人の心をとらえた末のヨン様だった。

 つい最近まで何かと雨風がやまなかった日韓関係を思えば、いや、さかのぼって植民地時代のことを思えば、まさに革命的変化である。日本人が韓国人にあこがれの気持ちをもったのは、渡来人が大陸の最新文化を持ち込んだころ以来だという人もいる。

 北朝鮮への国民感情はといえば、拉致や核問題で冷え切っている。その意味でも、これは救いではないか。もしいま日韓まで悪かったら、民族と民族の憎しみ合いになりかねない。

◇     ◇     ◇     ◇

 そんな感慨にふけっていたら、韓国で思わぬ法律ができた。植民地時代の日本(日帝)に積極協力した人々を洗い出す「親日・反民族行為真相糾明特別法」である。

 なぜ、いまさらなのか。先日、下関市で開かれた第12回の「日韓フォーラム」でも話題になった。両国の政治家や経済人、学者、ジャーナリストが集まって自由に議論する場である。

 「日帝協力者が独立後も支配層に入って、民主化を抑える役割を果たしてきた。そんな戦後政治を清算しようというものだ」「正義の実現のために、避けられない道だ」などと、韓国側メンバーから説明があった。

 そういえば、独立後に激しい反日姿勢を貫いた李承晩政権ですら、日帝時代の役人や軍人を起用して国づくりを進めた。この点、日帝の残滓(ざんし)を完全に追放した北朝鮮への民族的引け目もあるようだ。

 国民の統合を求めず、わざわざ刺激的課題を投げかけて支持を集めようという盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の手法の一環だと、批判的な分析も聞かれた。つまり韓国メンバーの賛否は大きく割れたのだが、「日本が標的の反日法ではない」という点では一致していた。

 それはそうに違いない。しかし私は、むしろ日本人が責められる以上にやりきれない気持ちがして、3年前にできた日本映画「ホタル」(降旗康男監督)の話をした。

 そこに登場する朝鮮出身の特攻隊員・金山少尉は出撃の前日、遺言を残す。「私は大日本帝国のために死ぬのではない。朝鮮民族の誇りをもって死ぬのです。朝鮮民族万歳」――。

 あの時代、日帝協力者といっても事情や心情はさまざまだったのではないか。民族の明日に熱い思いを託し、忍びがたきを忍んだ人もいただろう。人の心、まして死者の心の奥まで推し量ることができるのだろうか……と。

◇     ◇     ◇     ◇

 こんな話をしたのには理由があった。ジャーナリストの大先輩でもある韓国の権五●(クォン・オギ)・元副総理が、近く出版予定の私との対談(「論座」に一部掲載ずみ)の中で、飯尾憲士さんのノンフィクション「開聞岳」を語っている。「ホタル」のモデルとなった朝鮮出身特攻隊員たちを描いたこの本で、ある隊員(少尉)の兄がこんな証言をしていると教えてくれたのだ。

 「逃げろ、日本のために死ぬ必要はない」。最後に弟と会った兄はそう勧めた。だが、弟は首を振った。「自分は朝鮮を代表している。逃げたら祖国が嗤(わら)われる。多くの同胞が、一層、屈辱に耐えなければならなくなる」

 やがて朝鮮の解放者となる米国の軍艦めがけて玉砕した彼らが、韓国で祝福されるわけもない。だが、彼らを反民族的だと指弾できるのか。植民地支配とは、こんな切なさの積み重ねだったのではないか。いつも冷静な権さんが、兄弟のやりとりを語りながら涙ぐんだのを私は思い出していた。

 日本の冬ソナ・ブームは悪くない。日帝トラウマを脱したい韓国人の気持ちも分かる。だが、どちらの人々も、時には過去のこんな悲哀に思いを巡らせてみてはどうだろう。

 ※●は、王へんに奇

(04/09/26)








| 社会 | スポーツ | 経済 | 政治 | 国際 | サイエンス | 文化・芸能 | ENGLISH |
GoToHome ニュースの詳細は朝日新聞へどうぞ。購読の申し込みはインターネットでもできます。 GoUpToThisPage
asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
| 著作権 | リンク | プライバシー | 広告掲載と注意点 | アサヒ・コムから | 朝日新聞社から | 問い合わせ |
Copyright Asahi Shimbun. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission