奥山俊宏編集委員が日本記者クラブ賞を受賞

 2018年度の日本記者クラブ賞が、朝日新聞の奥山俊宏編集委員に贈られることが決まりました。同クラブが27日、発表しました。
 奥山編集委員は1989年入社。大量の資料を集めて分析し、それをもとに問題提起をする調査報道に長く携わってきました。経済事件や汚職事件、原発事故まで取材対象も幅広く、記事や書籍の執筆に取り組んでいます。

 今回の受賞では、米国で発掘した公文書を読み解いた著書「秘密解除 ロッキード事件」(岩波書店)が、「米側の視点から事件に新たな光を当て、調査報道の手本を示した。日本で公文書改ざんが問題となっている今、公文書の意義を示したことも大きい」と高く評価されました。

 また、タックスヘイブン(租税回避地)の実態に迫った「パナマ文書」や「パラダイス文書」などの報道に世界中のジャーナリストと連携して取り組んできたことや、自身の取材手法を様々な場で公開して後進の育成に努めている点も理由として挙げられました。

 奥山編集委員は「受賞を糧に、旧来の発想にとらわれず、より広いグラウンドで、愚直に取材・報道に取り組んでいきたい」と話しています。

 授賞式は5月23日に行われます。

 

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日本記者クラブ賞の受賞が決まって 奥山俊宏

 

 はからずも日本記者クラブ賞を受賞することになりました。この2月に司馬遼太郎賞を受賞したときもそうでしたが、私のような未熟者が本当に頂いていいものかどうか、戸惑いがあります。自分に務まるかどうか分からない何か重大な職務を引き受けたような、身が引き締まる思いでおります。賞の名をけがすことのないよう、これを糧に、さらに精進しなければならない、と覚悟しています。

 今回の受賞で評価してくださった仕事の多くは、アメリカにつながっています。

10年前に渡米して以降

 ちょうど10年前の2008年5月、私は上司の命を受け、「調査報道と内部告発の今」を取材するため、アメリカに出張しました。その機会を利用して、ニューヨークで、調査報道記者・編集者協会(IRE、Investigative Reporters and Editors,Inc.)のワークショップに参加しました。そして、そこで講義されている内容に私はとても驚かされました。取材にすぐに役立つ実践的なノウハウやテクニックが、報道各社の現役記者らによって、他社の記者を相手に惜しげもなく披露されていたからです。

 たとえば、ペイサー(PACER、Public Access to Court Electronic Records、http://www.pacer.gov/)というウェブサイトがあります。アメリカの連邦裁判所の事務総局が運営するウェブサイトで、そこにクレジットカードを登録すれば、連邦裁判所のほぼすべての訴訟を当事者名で検索でき、その記録をPDFファイルでダウンロードすることができます。秘匿扱いとなっているごく一部を除いて、刑事も民事も破産も、簡単に記録を読むことができます。「裁判の公開」を内実あらしめるウェブサイトであり、訴訟社会のアメリカで、人や会社に関するあらゆる取材のとっかかりになるサイトです。アメリカで訴えられた日本企業の記録、あるいは、日本で事件を起こしたアメリカ人の記録を探す際にもペイサーは必須で、日本にいても、取材にとても役立ちます。そんなサイトがあるのを知っているのと、知らないのとでは、取材・報道は大違いになってしまいます。IREのワークショップでは、そんなサイトの利用法を教示してくれ、私はそこで初めてその存在を知りました。これは一例であるに過ぎません。

 IREのワークショップでは、ペイサーを含め、取材・報道に役立つサイトの数々のリストが配布されていました。グーグルやヤフーの検索では見つけ出せない情報への入り口がそこに列挙されています。ニューヨーク・タイムズのコンピューター支援報道チームにそのころ所属し、「データベース・リサーチ・エディター」の肩書を持つマーゴット・ウィリアムズさんが作成したもので、2008年以降、私も実際、それを取材に活用しています。後日、ウィリアムズさんに「なんで、他社の記者にノウハウを教えてくれるのですか?」と尋ねたことがあります。「なんでそんなことを聞くのか」というような目で見られただけで、明確な返答はもらえませんでした。私の英語下手もあるのかもしれませんが、ウィリアムズさんにとって、質問の意図を理解できないほどにそれは当たり前のことなのでしょう。

 世界のあちこちで開かれているこのような集まりに、私はその後、機会を見つけては参加するようにしています。そこでは、所属する会社など組織の壁を超え、国境も超え、世代も超えて、記者や編集者が自分の具体的な経験から得られた教訓やテクニックを教え合い、学び合っています。夜更けまで飲んで語り合うことで、同じジャーナリズムに携わる者同士の連帯感が醸成されています。それらは、明日の取材・報道への活力になっていますし、道しるべにもなっています。意見の相違があったとしても、ジャーナリズムに携わる者としての原則はしっかりと共有されている、そういう共通の基盤を強固に築く場にもなっています。えこひいきなく、右左にかかわらず時の権力をチェックし、真相に少しでも近づき、できるだけ客観的に、できるだけ多くの情報を社会に流通させ、民主主義を機能させ、圧迫には抵抗し、報道の自由を守る、ということへのこだわりを、同じ職業を選んだ者として共有し、再確認する場になっているのです。

 そうした記者や編集者のコミュニティーを母体にして、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は生まれ、パナマ文書、パラダイス文書の取材・報道は実現しています。拙著『秘密解除 ロッキード事件』もまた、ICIJの創設者であり、IREの常連講演者でもあるチャールズ・ルイス教授の下で、同教授が率いるアメリカン大学の調査報道ワークショップを拠点に、米国立公文書館や大統領図書館に通ってリサーチした結果を土台にしており、その意味では、パナマ文書、パラダイス文書と同根です。

 

ハウツー調査報道

 朝日新聞社ジャーナリスト学校が発行する月刊誌『Journalism』で、私は、2015年10月号から12月号まで3回にわたって、「ハウツー調査報道」というタイトルで、私なりの調査報道の実践的なノウハウを開示する原稿を連載しました。その最後に次のように書きました。

 「これまで(中略)記者は自分独自のノウハウを自分の中だけにとどめて門外不出とするか、せいぜい、周りの仲間だけに教える程度であることが多いように思う。ましてや、他社の記者が読む可能性がある公刊物に掲載するなどもってのほかだったのかもしれない。しかし、その点、アメリカはとてもオープンだ。ライバルに惜しげもなくノウハウを披露している。大会やセミナーに競って教訓やコツを持ち寄り、見せ合っている。それが、個々の記者をさらにより良いプロフェッショナルへと進歩させ、モチベーションをアップさせ、調査報道を盛んにし、長期的にはジャーナリズム全体の社会的地位を向上させている。それに見習いたいと思う。」

 こうした発想の下で、私は2008年9月以降、早稲田大学ジャーナリズム大学院をはじめ、各地の大学や社内のジャーナリスト学校で、依頼があれば積極的に講義を引き受けてきました。昨年度からは、日本記者クラブの「記者ゼミ」の試みに関わっています。また、パナマ文書、パラダイス文書だけでなく、オフショア・リークス、ルクセンブルク・リークスなど租税回避地の問題、あるいは、核セキュリティの問題について、ICIJなど米国の非営利報道機関と共同で取材・報道し、また、アメリカで記録・史料や取材先を発掘することで、ロッキード事件に加えて、核不拡散条約など日米の戦後史や福島第一原発事故に新たな角度から光を当てようと努めてきました。このように、この10年、アメリカのジャーナリズムから私なりに学び、それらを私なりに実践してきました。そうしたことが今回の受賞に結びついたと思います。

 

旧来の発想にとらわれない

 従前の発想にとらわれず、旧来の枠を飛び出し、より広いグラウンドで、しかし、愚直に地道に、今後も取材・報道に取り組んでいきたい。受賞を機に私は改めてそう心に決めています。尊敬する諸先輩方が名を連ねる歴代の受賞者のリストの末席に加わるということは、そういう責任を課されることを意味するのだと肝に銘じています。

 ありがとうございます。