現在位置:asahi.com>文化・芸能>コラム>小原篤のアニマゲ丼> 記事

小原篤のアニマゲ丼

モヤモヤモヤ…「シンプソンズ」吹替版

2007年11月15日

 話題沸騰の米アニメ映画「ザ・シンプソンズ MOVIE」吹替版を見てきました。

イラスト

ホーマー(上)とバートは、いつものように悪ふざけ

写真

テレビ版のホーマー役、大平透さん

写真

映画版ホーマー役の所ジョージさん

イラスト

毎度のごとく、ホーマーのせいで一家は大ピンチ!

イラスト

12月15日から全国公開 (C)The Simpsons TM&(C)2007Twentieth Century Fox Film Corporation.All rights reserved.

 なんで話題沸騰かというと、15年前から日本でも放映されているテレビ版のレギュラー声優陣が起用されなかったから。「みんなハマリ役なのに、なぜだ?」と、ネットを中心にファンから批判が巻き起こりました。テレビ版で主人公のハチャメチャオヤジ、ホーマー・シンプソンを担当する大平透さんには02年、放映10周年を機にこのコーナーの前身「アニマゲDON」でインタビューしたことがあり、作品と役への愛をたっぷり語っていただいたのを思い出します。ハクション大魔王などで知られる大平さんのホーマーは奔放自在、どんな毒気もムチャもユーモアで包み込む至芸です。

 とまれ、映画を見ないでは映画を語れません。というわけで試写室へ。

 冒頭、ホーマーが映画館で「テレビでタダで見られるものを何でカネを払って見るの?」と、所ジョージさん(映画版ホーマー役)の声で毒づきます。私の脳内で、「まあ、見てるうちになれるさ」と言い聞かせる自分の声と、大平ボイスに変換された今のセリフがリフレーン。ホーマーの父がテレビ版と同じ滝口順平さんの声で登場するので、「うまいなあ、さすがベテラン」と思いつつ「困るなあ、テレビ版を思い出すじゃないか」とまた脳内がやかましい。所ホーマーは、お気楽なムードは出ていますがちょっと硬い。ホントは頭いいけどおちゃらけたフリしてよう、って感じがするのは、本人のキャラに引きずられているからか?

 ホーマーの後先考えない行動のおかげで、一家が暮らす町の湖が地獄の毒池と化し、一家は逃亡、町は住民もろとも消滅の危機に、という物語。何となく「テレビ版でいいんじゃないの?このプロット」と思いますが、ホーマーをリンチにかけようとする大群衆シーンや、CGを使ったスペクタクル、クライマックスのホーマーと息子バート(テレビ:堀絢子/映画:「ロンドンブーツ1号2号」田村淳)の大アクションと、映画らしいスケールの大きさは感じさせます。

 テレビ版は下品なギャグ、大胆なパロディー、楽屋落ち、悪ふざけが息つく暇なく詰め込まれていますが、あのテンポで1時間半の映画にしたら疲れるだろうとの計算でしょう、ギャグの間隔を広く取り、家族愛のドラマでボリュームアップを図っている印象です。バカな夫を温かく支えてきた妻マージ(テレビ:一城みゆ希/映画:和田アキ子)の心に冷たい風が吹きこみ、父に負けないトラブルメーカーのバートが何と「普通の優しいお父さんがほしい」と離れていく。どうする、ホーマー?

 見ていて何かに似ていると思ったら「クレヨンしんちゃん」でした。おバカなギャグ、ハチャメチャ騒動、家族愛ドラマ、危機を救う一家。まるで「クレしん」映画版。シンプソンズ劇場版が今後、「クレしん」みたいに化けたら面白そうですが、それは余談。

 さて「ザ・シンプソンズ MOVIE」は、目配りがきいて見せ場も作って、それなりの水準作です。でも家族愛のドラマの部分でどうもテンションが下がるのは、ギャグとシリアスの、緩と急のコントラストがくっきり演じ切れていないから。これを急ごしらえの「家族」にやってみせろというのは無理な話かも知れません。宣伝担当者によれば、今回の声優起用は「映画は映画として、別個の作品として認知してもらうためのマーケティング」とのこと。キャラクターのイメージに近い人を選び、米国の製作会社にも声を聞いてもらった上でOKを取ったそうです。

 これまでいろんな作品で、「タレント(or歌手)の○○さんが声をアテたので取材してくれませんか」といった売り込みを受けてきましたが、基本的には「その人が本業で活躍した時に取材したい」とか何とか言ってお断りしてきました。知った顔の担当者なら「プロの声優がやる方がアニメのためですよ。いいアニメなら、タレントさん使わなくても記事にしますよ」と言い添えます。タレント起用は多くの場合、会見や舞台挨拶がスポーツ新聞やワイドショーのネタになるからというのが理由でしょう。その事情も分かりますが、作品にプラスになった例は滅多にありません。

 ところで、マージ役の一城さんのブログによると、本作のDVD版ではレギュラー声優陣が担当するそうです。それではこの吹替版映画の立場はどうなるの?と気分はモヤモヤ。この顛末がすべて「ザ・シンプソンズ」の中の1エピソードなら、ギョーカイの内幕ネタも得意とするシリーズなので「今回もネタがきわどいねえ」と笑いとばせる話なのですが、現実はそうもいきません。

プロフィール

小原 篤(おはら・あつし)
1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。07年からデジタルメディア本部WEB編成セクションに在籍、アサヒ・コム「コミミ口コミ」欄でアニメ記事などを発信中。

PR情報

このページのトップに戻る