現在位置:asahi.com>文化・芸能>コラム>小原篤のアニマゲ丼> 記事 不良演劇記者のザンゲ2008年03月03日 こんな私でも、文化部(当時)で演劇担当記者を2年間務めたことがあります。
アニメと映画とマンガ、好きなものトップ3が自分の担当という時期もありましたが、それは例外的な幸せと言うべきで、当然ながらそんな甘い夢がいつまでも続くわけありません。別に金融をやれとかバイオテクノロジーをやれと言われたわけではなく、演劇ならお隣さんみたいなものだから何とかなるだろう……。そんなことを考えていた折、同僚の1人が話しかけてきました。 「今度、演劇担当なんだって?」 「ええ、なぜかそういうことに」 「演劇に興味あるの?」 「いやあ、2次元はいいけど3次元は縁遠くて」 「ああ、そうかー」 そうかー――って、真顔でうなずかないで下さいよ、ギャグで言ったんですから。 実際、演劇は学校の演劇鑑賞教室くらいしか縁がなく、さてどうしたものやら。とりあえず、名の通った劇場へ行き、名の通った劇団のお芝居を見ることから始めました。そのころ見たお芝居の一つが、テアトル・エコーの「朝の時間」でした。 ご存じの通り、ベテラン声優としても知られる熊倉一雄さんと納谷悟朗さんが率い、声の仕事で活躍する人の多い劇団です。なじみのお名前は心強いもの。たらい船で海を漂い見覚えのある海岸を見つけたような、トリトンがイルカのルカーと再会したような、マルコがロサリオでフェデリコじいさんと再会した(「母をたずねて三千里」)のような気分です。 「朝の時間」は、団地暮らしの老夫婦とその子供たちを巡るホームドラマ。引退を考えているタクシー運転手の夫を熊倉さんが演じています。「ヒッチコック劇場」のヒッチコックの声が有名ですが、私にとっては宮崎駿・高畑勲コンビが作ったアニメ映画「パンダコパンダ」のパパンダです。「特にタケヤブがいい」というパパンダのセリフを思い出しながら舞台を眺めていると、妻役の声を聞いてハッとしました。 「どっかで聞いた声だな…あっ、カン太のかあちゃんだ!」 カン太は「となりのトトロ」に出てくる男の子。カン太が貸してくれた傘をサツキが返しに行くと、かあちゃんが出てきて恥ずかしそうに「やだよぉ、こんなボロ傘」と言って受け取るのです。少ししゃがれたあのセリフを反射的に思い出しました。「カン太のかあちゃんはこんな人なのか」などと思いつつ、日常の機微をすくい上げる淡々とした味わいのコメディーを楽しみました。しかし、見終わって劇場を出ると思い出したのです。 「ああっ! あの声はパンちゃん」 パンフをつかんで見入りました――「丸山裕子」。妻役の丸山さんは、確かにカン太のかあちゃんでしたが、「パンダコパンダ」第2作「雨ふりサーカス」でパパンダの子パンちゃんを演じた人でもあったのです。 「そうか、いま自分は、パパンダとコパンダがしみじみと老夫婦を演じるのを見ていたのか。うかつだった!」 というわけで以後、東宝のミュージカル「マリー・アントワネット」を見ては「おお、剣心だ、剣心だ」→アニメ「るろうに剣心」で主人公を演じた涼風真世さんが主演していたので。 劇団昴の「八月の鯨」を見ては「おお、将軍だ、将軍だ」→アニメ「王立宇宙軍オネアミスの翼」の将軍役、内田稔さんが出演していたので。 二兎社の「歌わせたい男たち」を見ては「おお、マチルダさんでアンパンマンで二代目鬼太郎だ」→戸田恵子さんが主演していたので。 といった具合に、不良演劇記者は月20ステージのペースで観劇を重ねていったのでした。 プロフィール
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