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小原篤のアニマゲ丼

押井守という病

2008年03月31日

 立ち食い、牛丼、犬・鳥・魚、夢、聖書、廃墟、薬莢(やっきょう)、銃、ヘリ、戦車、人形、ボブカット…。ナンノコッチャとお思いでしょうが、これは押井守監督が好きなもの。監督が自作にぶち込むモチーフの数々であり、押井ファンが喜ぶ好物でもあります。篤い「押井守という病」に冒されますと、「世界は犬・鳥・魚の3要素で出来ている」などと口走ったり、週に何度も立ち食いソバを食べたり、押井監督の出身地だからという理由で大森(東京都大田区)に住んでみたりします(私のことです)。気をつけましょう。

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07年6月「スカイ・クロラ」の製作発表会見をする押井守監督

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「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」から (C)2008森博嗣/「スカイ・クロラ」製作委員会

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シルエットはヒロインの草薙水素

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髪型はボブカット

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どんな恋愛ドラマが展開するのか

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8月2日から全国公開される

 ただいま押井監督は、8月公開予定のアニメ映画「スカイ・クロラ」を製作中。その先行パート試写をするというので見に行きました。冒頭約20分間の映像で、せりふも音も入っています。世界が注目する押井監督が、これまでの晦渋な作風を捨てて「生き直す」覚悟で挑むという、若者たちの恋愛ドラマ。戦争が企業の管理する見せものになった時代、少年少女の姿のまま年を取らない「キルドレ」たちが、傭兵として永遠に続く戦場を生きる物語というふれこみですが、さて。

 映画はまず、戦闘機の激しい空中戦からスタートします。旋回、上昇、下降を激しく繰り返して戦う機体を高速で追い回すようなカメラワーク。機銃の薬莢が翼の下から大量に吐き出されるカットは、一転スローモーションに。出ました「薬莢の滝」! ありがたいありがたい。

 戦闘が止み、オープニングクレジットへ。押井作品に欠かせぬ川井憲次さんの音楽は今回、雄大で優しく包み込むような雰囲気で、ちょっと大河ドラマ風? 着陸する戦闘機を、格納庫からバセットハウンドが出てきて迎えてくれます。ガブリエル(ガブ)という名のバセットと共に暮らす押井監督は、こうして作品にも犬への愛を刻み込んできたのですが、ほぼ1年前の07年4月3日、ガブは天国へと旅立ったそうです。スクリーンに現れるのはこれが最後なのか、ずっとこれからも作中で愛嬌をふりまくのか。ちょっとしみじみした気分に。

 ヘルメットを脱いでようやく顔を見せた主人公・函南優一(カンナミ・ユーヒチ)は、丸顔で温厚そうな青年という印象。その上司であり物語のヒロインでもある草薙水素(クサナギ・スイト)は、押井監督の「運命の女」=ファム・ファタールの証であるボブカット、射るような目、そして冷たく無口。「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」ラストに登場する、少女の体になった草薙素子に似ています(名前も似ています)。水素の言動は大人というか、素子と同様カンロクある女ボスなのに、姿は10代半ばで声は子供っぽくアンバランス。ちなみに声優陣は一線で活躍する若手俳優たちですが、4月19日まで明らかにしてはいけないそうです。

 試写パートにはまだ出てきませんが、この「おばさん娘」が実は子持ちでは?という展開が後に待っています。コドモにして母親――〈母〉的なものと〈子〉的なものの近接は、押井作品においては不吉なモチーフ。丸顔の兄ちゃんとの間に、破滅的な愛がどう燃え上がるのか。ドラマのカギはこのおばさん娘が握っていそうです。

 というわけで、薬莢の滝! バセット! ボブのおばさん娘! ゾクゾクしますね。「健康」な人には、やっぱりナンノコッチャでしょうが。

プロフィール

小原 篤(おはら・あつし)
1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。08年4月から編集局編集センター員。

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