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小原篤のアニマゲ丼

アニメはみんなのもの

2008年05月12日

 勝利の凱歌、いえ、勝ちどきでしょうか。壇上で大平透さん、堀絢子さん、一城みゆ希さん、神代知衣さんら、米アニメ「ザ・シンプソンズ」の吹き替え声優陣16人が「3、2、1――」、そして約500人の観客と一緒に声をそろえて「ドッ!!」(主人公ホーマー独特の感嘆詞)。5月4日に東京都内で開かれた「シンプソンズファン感謝祭」の光景です。

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ファン感謝祭で、うれしそうな笑顔を見せる大平透さん(右)

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DVD「ザ・シンプソンズ MOVIE」は20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパンから発売中。ブルーレイディスクもある

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ファンの子供たちと一緒に「ドッ!!」と声を上げるレギュラー声優陣

 昨年11月15日の本欄「モヤモヤモヤ…『シンプソンズ』吹替版」で、映画「ザ・シンプソンズ MOVIE」(昨年12月公開)に大平さんらテレビ版のレギュラー声優陣とは異なるキャストが起用されたため、長年愛好してきたファンから批判の声が上がっていることを取り上げました。DVDではレギュラー陣が吹き替えをするらしい、とも書きました。

 そしてその通り、劇場公開バージョンと共に、大平さんらによる「特別収録オリジナル・バージョン」の日本語音声を収録したDVDとブルーレイディスクが、めでたく3月に発売されました。レギュラー起用を訴えたファンと共にこのディスク発売を祝おうと、大平さんたち声優陣がこのファン感謝祭を主催し、映画会社側も協力、数多くのファン有志がボランティアスタッフとして支えました。観覧希望が多数のため抽選で絞ったとか。私もご招待いただき、取材を兼ねて参加しました。

 イベント用にわざわざ収録したシンプソン一家の寸劇(音声のみ)、映画上映(もちろん「オリジナル・バージョン」)、景品つきクイズ大会、大平さんサイン会など盛りだくさんの4時間でしたが、一番印象的だったのは、一時はホーマー役を降りようとまで考えたという大平透さんのあいさつでした。

 「ホントにありがとう。胸がいっぱい。オナカもいっぱい。うれしいです。ムービーのDVD、やるかやらないかといろいろありました。皆さんの大きな大きな力と声に、私たちは決断しました。今までのことは水に流して、アレはアレ、私たちは私たち。皆さんの希望に添いたいと私たちは考えました。その代わり、この催しを実現したいと(映画会社側に)お願いしました。皆さんの力で今日があるんです。ありがとう。トシを取ると涙もろくなって、ごめんなさい」

 今回のことに限らず、昔も今もアニメを巡っては様々な問題が起こります。声優交代、打ち切り、路線変更、放送中止、表現規制、「作画崩壊」批判、違法アップロード、録画規制……。時として、自分の立場ばかり主張する声が飛び交い、寒々としてとげとげしい空気が流れることがあります。作品というのは、お金を出す人、つくる人、みんなに届ける人、そして見る人がいて成り立っているわけで(新聞も同じですが)、作品は誰のものかと問われれば「みんなのもの」だと思うのです。きれいごとかも知れませんが、「みんなのもの」であってほしいし、「みんなのもの」であるように努力することが大切だと思います。

 「ザ・シンプソンズ MOVIE」に関しては、「映画観客層にはタレント起用がアピールする」と考えた映画会社側が「ソフト購買層にはオリジナル声優がアピールする」と判断したとしても、別に驚きはありません(底意地の悪い見方ですが)。とはいえ、こうして「オリジナル・バージョン」が世に出、ファンもキャストも販売サイドもみんなが喜ぶべき結果に落ち着いたと言えるでしょう。それは、ちょうど今回のイベントのように、それぞれの立場の人が「作品はみんなのもの」を目指したからたどり着けたのではないでしょうか。壇上の「我らがホーマー」大平さんのまぶしい笑顔を見ながら、そんなことを考えました。

プロフィール

小原 篤(おはら・あつし)
1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。08年4月から編集局編集センター員。

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