読み込み中

 古くは良質な花崗岩の産出で知られ、20世紀初期には銅の精錬で栄えた犬島。今年開催されている瀬戸内国際芸術祭では、島の古民家を活用しアート作品を展示する家プロジェクトなどが展開されている。犬島港から家々の間を抜けてぐるっと一周、島の景色も楽しみながら巡れる6作品を紹介する。

F邸

F邸「Biota(Fauna/Flora)」

名和晃平

 妹島和世がリノベーションした民家に、壁を突き破らんばかりの勢いを持った名和晃平の巨大作品が置かれる。ビッグバンをイメージしたという作品「Biota」は、生命を構成する動物相・植物相を表す。巨大な白いサンゴのような作品は今も増殖しているようだ。ホワイトキューブでは時に不気味に見えるであろう「生」の勢いも、ガラス張りの風が通る木造建築の中にあると、外の自然に溶け込み自然なものに見えてくるから不思議だ。屋根のない野外部分には植物相を表す立体作品が並ぶ。通常室内に置くことを考え制作しているだけに、耐久性のある素材を選ぶのには苦労したという。

S邸

S邸「コンタクトレンズ」

荒神明香

 くねくねと細く続く道を進むと、道ばたに現れるのは「コンタクトレンズ」だ。道に面し広場と道を分けるように建てられた透明なアクリルの細い通路のような空間の中には、大小さまざまなレンズがつるされ、大きな水滴のようだ。レンズを通して見ると、家並みや通る人の一部が大きくなったり小さくなったり。「作品の内と外でコミュニケーションを生む作品」と犬島全体をプロデュースした長谷川祐子さんは話す。

A邸

A邸「リフレクトゥ」

荒神明香

 細い道を進むと、今度は「リフレクトゥ」がやはり野外に現れる。妹島和世さん設計の透明なアクリルで作られた空間はドーナツ型に円を描き、「穴」の中に立てば、鮮やかな色彩が花の輪のように広がる。「色彩」は市販の造花を展開したものだ。大人の目線の高さを中心に上下対称に色彩が広がる様子は水面のようで、自分が海に浮いているような感覚を味わえる。作者の荒神さんは「深夜に(潮の満ち引きで)流れが止まった利根川を眺めた時、対岸の景色が水面に映り巨大な生物のように見えた」といい、その情景を作品にしたという。これまでも同様の作品は発表してきたが、今回のプロジェクトでは、青々とした木々が広がる周囲の環境に合うように赤を多めにするなど調整した。「いままでとは違う作品となった」という。

C邸

C邸「Inujima Monogatari」

ジュン・グエン=ハツシバ

 日本人の母、ベトナム人の父を持つ作家が犬島の文化・歴史から刺激を受け、作った映像作品。島の地場産業であった「石切り」の現場を野球場に見立てたものや、島から送り出す人をテープなどで送る「見送り」の風景を描く。窓のない木造のC邸の周囲には、映像に関連した「小道具」もある。

I邸

I邸「Universal Reception/Prayer/Universal Wavelength(音楽)」

前田征紀

 最後に我々を待つのは、宇宙をテーマにした、瞑想するような空間だ。庭には、金属の板を中心に東西南北に柱が立ち、それぞれの柱には緑や紫など淡い4色のガラスがはられ「宇宙からのエネルギーを受けている」(前田さん)。訪れた日は雨だったが、晴れていれば、太陽の動きによって4色の光が織りなす動きも楽しむことができる。庭に面したギャラリー内に入ると、白い空間には、宇宙をイメージした音作品「Universal Wavelength」が静かに響く。奥の部屋には天井から犬島の井戸水が入った電灯のようなガラスの器がさがり、白壁にやわらかな光を落とす(「Prayer」)。作家の前田さんは「水には犬島の人々のスピリットがうつされているだろうと思った。そこに光を当てることで、視覚化した」という。
 I邸から港へ向かう道は、瀬戸内海に臨む。訪れた春には、海上に霞がかかり、幻想的な情景が広がっていた。犬島で見た作品を、海を見ながらもう一度振り返るのも悪くない。

石職人の家跡/太古の声を聴くように、昨日の声を聴く

淺井裕介

 民家の間にぽっかり空いた広場には、動物や植物など遺跡のような作品が描かれる。屋外でも耐久性のある素材を探し、行き着いたのは溶着性のあるゴム。ゴムを薄くのばしたシートを切り、火で土に焼き付けた。描くモチーフは島に渡ってくる時の船や島内の神社のシルエット。淺井さんは「島の人が説明してくれる作品にしたかった」といい、制作には島民も参加。飼い犬やの名前などが入った部分もある。作品中には、民家を壊した際の梁が塔のように立ち、精錬所の煙突のイメージとも重なる。淺井さんは「塔があることで作品を一度で見られなくなる。作品の周りを歩きながら、いろいろな角度から見てもらいたかった」

デザイン:末房赤彦 / 制作:佐藤義晴 / 文・写真:神崎ちひろ