「光の中へ」
光の中へ
ただ 光の中へ
僕は入りたい
たとえ そこが
現実の世界でなくても
光が僕を誘う
僕の分子を呼ぶ
細胞のひとつひとつが
光に向かって伸びていく
この手が
この目が
光をつかまえる
一瞬の喜び
どこにでも光はあるのに
僕が望む 真実の光は
永遠に
存在しない
◇
【太田康夫】「光の中へ」の作者、東田直樹さん(20)は他人とうまくコミュニケーションがとれず、5歳のころに医師から自閉傾向と知的障害があると診断されたという。一方で幼少時から詩や物語を書き、すでに15冊を出版した。彼の言葉は、どうやって生まれるのだろう。千葉県君津市の自宅へ会いに行った。
■文字盤指さしながら話せる
食卓に現れた直樹さんは母美紀さん(51)に、甲高い声で「おやおやおや」と話しかけた。笑顔だった。美紀さんは「違うよ」とほほえみ返す。やりとりは十数回続いた。直樹さんのお気に入りの言葉遊びだという。
直樹さんの笑顔を見ていて、ふと浮かんだ質問。「どんな時に幸せを感じますか」
直樹さんの手元にはパソコンのキーボードを書き写した紙の文字盤。1文字ずつ指さしながら、答えてくれた。
「のんびりと自然の中で、自分の心と昔の自分を見つめる時間が好きです」
エッセー集「風になる―自閉症の僕が生きていく風景」で「話そうとすると、頭の中が真っ白になってしまう」とつづっている。だから会話は難しい。「壊れたロボットを操縦するような身体。奇声やひとり言も、望んでやっているわけではありません」とも記す。
だが、文字盤を指さしながらなら話せる。パソコンで文章を作り、気持ちを伝えることはできる。
「光の中へ」は昨年4月、「東田直樹オフィシャルブログ」(http://higashida999.blog77.fc2.com/)に掲載した作品。苦しみがにじむ詩の意味を尋ねた。
「目指す生き方が定まらなかった中学、高校生のころの苦しさ」を表したという。今はどうか。「自閉症である自分を恥じていません。どんなに滑稽でおかしくても、これが僕なのです。自閉症のまま、自分の人生を生きにくいと思わず、楽しみながら生きていきたい」
取材中、直樹さんは「4時になったら終わり」と繰り返した。自閉症の人は予定に固執する場合が少なくない。
記者のことを考え、美紀さんが「4時半にしようか」と提案してくれた。直樹さんはパニックを起こした。自分のシャツの袖にかみつき、大声を上げて部屋から飛び出した。
「取材をやりきりたい思いと、時間へのこだわりとの間で葛藤している」と美紀さん。直樹さんはまもなく戻ってきた。指が「帰ってもらいたいわけではありません」と伝えてくれた。