■野猿
川の上に渡した人力ロープウエーは、サルが木のツルをつたう姿に似ていることから「野猿」と名付けられた。
日本一広い村、奈良県十津川村の96%は山林だ。幾重にも折り重なる山々を何本もの川がえぐり、うねる。対岸に渡るのは容易でなく、戦後、生活用の鉄線の釣り橋としては日本最長の「谷瀬(たにぜ)の吊(つ)り橋」(長さ297メートル)が架かった。だがもっと昔はそんな架橋技術もなく、村人はサーカスの出し物のような野猿に身を託した。
谷間の狭いところを見つけて両岸にワイヤを張り、滑車を付けた壁のない犬小屋のような木の箱に乗り込み、綱を引いて中空を進む。