音楽の膨大な蓄積と引き出しの多さから「音楽王」とも尊称される細野晴臣が、新アルバム「Heavenly Music(ヘブンリー・ミュージック)」を出した。1920年代のジャズやポップスから、テクノ音楽までをカバーした作品。細野の歌は、独特の低音ボイスにさらに磨きがかかる。サウンドは、懐古趣味では決してない。昔の音を再現しようとして、ついになし得なかった、そのギリギリのラインに、むしろ「現代に聴く意味」が立ち現れてくるようだ。(聞き手・近藤康太郎)
夏フェス特集2013記事はこちら■原曲に惚れ込んで
――新作は、前作の「HoSoNoVa(ホソノ場)」(2011年4月発売)に続いてカバー集ですね。続編のようですが、その経緯を教えてください。
「『HoSoNoVa』の発売直前に東日本大震災が起きて、オリジナル曲の制作に手がつかなくなったんです。メッセージを伝える気持ちになれなくて。それで2年くらいかな、自分が楽しくなるような曲をカバーするライブを続けたんです。その気持ちのままで作ったのがこのアルバムです。そのときに演奏した曲を集めて、このアルバムになったということですね」
――自分が楽しくなるような曲というと、こういう、年代としては古いジャズやポップスになっていくんですね。わたしもそうですが、今、テレビで流れてくるような音楽では、どうも楽しくなれない。落ち着かない。
「日常とつながり過ぎちゃってるのかな。そういう音楽は。テレビのような日常に」
――今作でカバーした曲は、わたしも不勉強で知らないものが多かったんですが、細野さんはどうやって出会ったんですか?
「うん、みんなかなり昔ですよね。4、5歳のとき、映画好きの母親のレコードを聞いて知った曲とかね」
――カバーをする場合、昔の曲に新しい解釈を付け加えるアーティストが多いです。細野さんのアプローチは?
「まずは原曲の音に惚(ほ)れるんです。惚れこむ。それで『この曲を、この時代にいかすにはどうすればいいか』と考えます」
――アルバムの解説に、好んでいた古い曲を残していこうと試行錯誤を重ねたが、それが出来ないことが分かった、と書いています。これはどういう意味なんでしょうか?
「名曲を聞いて『この音を出したい』と思っても、その時代のスタジオや楽器や録音機材や、テクノロジーが違うでしょう。社会が作った『音』は再現できないんですよ。だからこそやりがいがあるとも言えるんですけど。ちょっとでも近づきたいと思っています」
■「いまの音楽」として
――細野さんが、こうした知られざる名曲をカバーすることで、今の若い人や、後世へも伝えていきたいという、使命感みたいなものはあるんですか?