|
■評:喪失の歴史に感情重ねて
【秦早穂子・映画評論家】光と影に満ちたモノクロの映像。いくつかの時代と、異なる場をつなぐ凝った構成。1960年代に流行したザ・ロネッツの音楽に乗せられ、埋もれた官能が揺さぶられる。ドイツの名監督ムルナウ、最後のサイレント作品にあやかってか、原題も同じ「TABU(タブー)」だ。所どころ、忍ばせる映画史的散策も楽しいが、いちばんの魅力は、主題と映像表現が見事に溶け合い、虚構の物語を語る妙味である。
第1部「楽園の喪失」は、憂鬱(ゆううつ)な現在のリスボン。定年退職したピラールは意義ある生き方を探しているが、彼女の善意は空回りするばかり。隣の老女アウロラは娘に見捨てられ、手伝いとも、そりが合わない。妄想にとりつかれた孤独な老女は、死に際にベントゥーラという男を探してほしいと、ピラールに頼む。