■クロード・ロラン
「理想風景」という風景画の系譜がある。その代表的な画家がクロード・ロランだ。この作品でも、深い緑をたたえる森の切れ目から、精妙な光に包まれた遠景が浮かび上がる。牧歌的な理想郷ともいうべき風景だろう。
だが、近景に目を凝らすと驚愕(きょうがく)する。樹木に裸の男がつるされ、その足元では別の男が刃物を研いでいるのだ。哀れな男は牧神サテュロスのひとり、マルシュアス。竪琴の名手でもあるアポロ神に、葦笛(あしぶえ)で奏楽の勝負を挑んだが、敗れたため生きながら皮をはがれてしまう。その惨劇を予感させる場面だ。