【西本ゆか】痛みもかなしみも喪失も時をおいて振り返る時、新たな意味が見えてくる。父であり師でもあった十二代目団十郎との別れを今、市川海老蔵は「己を信じて勉強し、成長しろ、という神様からの厳しい贈り物」と受け止める。「守られがちな環境を脱し、成功も失敗もすべてを担い、向き合っていく。やりたいことは山積で、加速度を上げ走りたい」。8月、東京・シアターコクーンで初の自主公演「ABKAI(えびかい)」に臨む。
父よりも、自分が生まれる前に亡くなった祖父の十一代目に風姿が似ていると言われ、自覚もしてきた。なかでも歌舞伎十八番「助六」ははまり役で、演じれば決まって脳裏に「祖父がちらちら」したという。
だが、急逝した父の代役を務めた6月の歌舞伎座でちらついたのは十二代目の姿。演じているのに己がそこにいないかのような、不思議な感覚も初めてで「おこがましいが、父とのシンクロを確かに感じた。僕はただその魂に身を任せていた」。