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【白石明彦】詩人中原中也(1907〜37)の第2詩集『在りし日の歌』誕生の背景に、ロシアの作家チェーホフの読書体験があったことをうかがわせる中也の書簡が見つかった。
県立神奈川近代文学館の学芸員が4月、中也の友人安原喜弘(よしひろ、1908〜92)の遺族が保管する資料の中から150字詰め原稿用紙4枚の書簡を見つけた。日付も宛名もないが、34〜36年に安原へ出したらしい。
書簡で中也はチェーホフの幻想小説「黒衣の僧」の内容を紹介し、〈青春の神秘が、こんなにも現実感を以(もっ)て描かれてゐる作品といふものは、世界に唯(ただ)一つ〉と一読を勧める。これは青年哲学者と彼の幻覚の中に蜃気楼(しんきろう)のように現れる黒衣の僧の物語。僧は青年を、神に選ばれ、真理に仕える天才と呼ぶ。自分を天才と信じていた中也がこの物語に深く没入した様子が、書簡からはうかがえる。