■評:ちっぽけな人間 静かに肯定
【森直人・映画評論家】際どいところにあえて踏みこんだ映画だと思う。主人公の堀越二郎は、第2次世界大戦中、日本の代表的な戦闘機であった零戦を設計した実在の航空技師がモデル。少年期からの美しい飛行機を作りたいという彼のピュアな夢は、やがて戦争の荒波に呑(の)み込まれ、兵器開発というネガティブな政治性を帯びてしまう。それでも二郎は愚痴すら口にせず、軍需産業に携わるサラリーマン技術者として、ただ日々淡々と仕事を続けていく。最愛の女性・菜穂子を全力で守りながら。
おそらく以前の宮崎駿なら、こういう人物の物語は描かなかっただろう。例えば「風の谷のナウシカ」や「もののけ姫」では、自然を侵す人間たちの愚行と戦う少女が主人公に置かれていた。あるいは「紅の豚」の飛行機乗りは、人間界に見切りをつけて豚の姿に変身するという反骨の美学を背負っていた。そんな正義の理念に生きる彼らが“ヒーロー”だとしたら、身の丈の生活者に徹するノンポリの二郎は“小市民”と言える。