【西本ゆか】「人間ひとり分の才能なんて、たかが知れているんだよ」と、傘寿を迎える笈田(おいだ)ヨシは穏やかに語る。「すてきな何かは、すべて天から降ってくる。だから努力ってのは己の余白を広げること。詰め込み過ぎてぱんぱんだと、贈り物も滑り落ちてしまうからね」。英国人演出家ピーター・ブルックを師と仰ぎ、欧州に拠点を移して45年。久々の東京で、8月1日から舞台「春琴」に出演する。
演出は、ブルックのワークショップなどを通じて旧知のサイモン・マクバーニー。盲目の春琴と仕える佐助の究極の愛を描く谷崎潤一郎「春琴抄」を縦糸に、三味線や文楽を思わせる人形も用い「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」の美学を織り上げる。日本初演は2008年。笈田はロンドンやパリを巡る10年の欧州ツアーや台北でも老境の佐助を演じ、今月初旬には米国のリンカーンセンターで喝采を浴びた。
「芸術は古くから異国の文化を採り入れ、有から新たな有を生んできた。ありがたい評価は作品の完成度によるもので、素材の国籍は今やさほど重要ではない。日本発にこだわり過ぎると創造の世界が小さくなってしまうよ」