前回の本欄末尾で予告した通り、映画「風立ちぬ」ラストの読み解きです。ネタバレです。でも、その前にまずは「夢」の話から。
この映画の大きな魅力は、現実から夢へジャンプする瞬間の魔術的な陶酔感、そして飛行機が乱れ飛ぶ夢のシーンに満ちあふれる官能的なまでの悦(よろこ)びです。宮崎駿監督はモラルのカセを取り払い、ほしいまま空想にふけり、いつまでも終わらない快楽に身をゆだねているようです。
映画の冒頭は、少年二郎の夢。手製の飛行機で彼が町を低空飛行する時、誰も驚いたり注目したりしないのに、若い女の集団だけが大きな家屋の2階から歓声をあげ手を振ります。あれは女工か娼妓(しょうぎ)か。ここからもう、飛行と官能は結び合わされています。
次の夢からは、二郎が雑誌で知ったイタリアの飛行機設計家カプローニの夢とつながり、2人は空をゆく翼の上で飛行機にかける思いを語り合います。夢の中は、狂気とも言える飛行機への愛と官能が支配する世界。上昇し飛翔(ひしょう)する飛行機のアクションが観客に疑似的な浮遊感をもたらし、それを通じて二郎とカプローニの味わっている快感が伝わってきます。これまでの自作でも使ってきた宮崎さんの得意技ですが、何というかこれはもう「淫する」と言いたくなるレベルで、圧倒的です。

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。文化くらし報道部でアニメやマンガを担当。※ツイッターでもつぶやいています。単行本「1面トップはロボットアニメ 小原篤のアニマゲ丼」(日本評論社)発売中。