部屋の隅で息子が泣いている
可哀相になって撫でてやろうとしたら
怯えてさっと身をひいたので
もう一度殴った
拳のにぶい痛みが
身体の奥にゴミのように積もってゆく
遠くから別の誰かが懇願している
思い出してください はじめてこの子を
抱きあげた朝 腕先からまるで祈りのように
心へとこぼれたあの思いがけぬ軽さを
その声をききたくなくて罵った
かがみこむ鬼の背中が姿見に映っている
床に組み敷かれているのは わたし
振り返った顔もわたし
わたしがわたしを緩慢な動作で打ちつづける
いつの間にか息子はベランダに寄りかかって
眼下に広がる春の河原を眺めている
遠くの声は泣きじゃくるだけ
でももう遅すぎる
華奢なうなじはついに声をあげない