〈第4回〉「大人の歌舞伎デビュー」
2006年10月20日
 大石内蔵助を演じる中村吉右衛門=「元禄忠臣蔵」から
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 大石内蔵助を演じる坂田藤十郎=「元禄忠臣蔵」から
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 大石内蔵助を演じる松本幸四郎=「元禄忠臣蔵」から
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歌舞伎の魅力のひとつに、年齢や経験を重ねるほどに実感できる味わいが確実にある、ということが挙げられます。たとえば国立劇場開場40周年の記念として今月から上演が始まった「元禄忠臣蔵(げんろくちゅうしんぐら)」。自分自身、この作品の素晴らしさが臨場感を伴って心に届くようになったのは社会に出てしばらく経ってから、でした。
新歌舞伎というジャンルに分類されるこの作品は昭和に誕生したものです。近代的な心理描写を盛り込んで描かれているのは、未曾有の一大事に直面した男たちのドラマ。作者である真山青果独特の格調高く雄弁な台詞も、以前の自分には退屈に長く感じられました。
それがいつしか、同じ日本という国で生きる人間の生身の感情としてずっしりと胸に響くようになってきたのです。彼らが抱えてしまったことの大きさや心の機微は、親のスネをかじっていろんなものに守られながら暮らしていた生意気な小娘の理解能力を超えていたのですね。
その逆で歌舞伎をたとえ一度も観たことがなくても、この芝居に深い感銘を受ける人もいるはずです。歌舞伎初心者にお勧めの演目といえば「わかりやすくて楽しい、見た目も派手な作品」と思われがちですが、決してそうではないのです。会社や家族のために仕事一途であったがゆえに、歌舞伎を観る機会がなかったという男性もたくさんいらっしゃることと思います。この「元禄忠臣蔵」はそういう方々にこそ、初めての歌舞伎体験として観ていただきたい作品です。
やがて吉良邸討入り果たす男たちの思いは、10月公演第一部ではまだ完全にひとつに結ばれていません。困難を強いられる一大プロジェクトの選抜メンバーはようやく固まりつつあるけれど、メンバーひとりひとりの思いはランダムな方向を向いている、といった状況が描かれています。プロジェクトの最終目的がどこにあり、そのために自分は何を為すべきなのか、各メンバーにはそれぞれの考えがあります。
こんなふうに現実と重ねながらそれぞれの台詞を聞いていると、この人の立場だったらそう思うだろうな、あっちの立場だったらそれもわかる、と客席で思わずうなずいてしまうのです。もちろん彼らと自分とではスケールがあまりにも違います。ですが根本的な部分というのは事の大小にかかわらず共通しているのではないでしょうか。
討入りというプロジェクトを遂行するための現実的方法論こそ違うけれど、信念を持ち事態にまっすぐ立ち向かう姿勢はメンバー共通のものです。忙しさに取り紛れ表面的で事務的なやりとりの多い現実を思うにつけ、彼らの姿は惚れ惚れするほど気高く、その心根の美しさには魂が洗われるようです。
「元禄忠臣蔵」全10編を3カ月連続で完全上演するという試みは史上初。いろいろな意味でこんな機会に出会えることなどめったにありません。つくづく思うのは、生意気な小娘時代ではなく不惑を超した今の年齢でこの公演に立ち会うことができてよかったということ。内蔵助には妻もあれば子もあります。私などには一生かかってもわからない共感を得られる方もたくさんいらっしゃるはずです。
〈実践メモ〉
評判が評判を呼び10月公演は、初日から1週間あまり過ぎた時点で公演最終日まで全席ほぼ完売。すでに前売りが開始されている11月公演もチケット残りわずかとなりました。チケット獲得のコツは、とにかく最後まで「あきらめないこと」、そして「こまめにチェックすること」に尽きます。
昨日はなかったチケットが今日になったら1枚あった!などということが珍しくないからです。団体客の戻り券だったり、電話予約はしたものの指定された期日までに引き取りに来なかったものだったり、その理由はさまざまです。
現実に専業主婦の知人は家事が一段落するたびにチケットのチェック時間を設けて、入手不可能と思われた公演のチケット獲得に何度も成功しています。自分自身も、前日になって観劇の時間が取れると判明し、携帯電話で問い合わせてみたら1枚だけあったという経験があります。残席の状況は当日まで動いているのです。
最近はネットオークションやチケットショップなどで各種チケットが販売されていますが、違法行為により転売されたものも多く、偽造チケットが出回っていることもあります。こういったチケットはトラブルのもと、とにかくあきらめずに正攻法で入手しましょう。国立劇場チケットセンターの連絡先は〈公演案内〉をご参照ください。