現在位置:asahi.com>文化・芸能>コラム>歌舞伎を楽しむ> 記事 文・清水まり 〈最終回(第5回)〉「始まりは劇場から」2006年12月29日 第1回からいろいろ記してきましたが、結局のところ歌舞伎の魅力を実感するには劇場に行き、自分の目や耳で感じ取るしかないのです。野球やサッカーについてどれほどの知識を蓄えたところで、白熱した試合を観戦したときの感動に勝るものがないのと同じです。
その点で歌舞伎は、さまざまな要素が融合し合って感動の場面が生まれるチームスポーツに似ているかもしれません。演じる役者の芸、アンサンブルの妙、演出の冴えを、選手個々の技量、チームワーク、監督の采配に置き換えてみると納得がいくのではないでしょうか。またサポーターの応援が試合を盛り上げるように、“大向う”と呼ばれる人たちから「○○屋!」と、絶妙のタイミングで声がかかると劇場の熱気はぐっと高まります。 素晴らしい選手のファインプレーがそのスポーツの魅力を伝えてくれるように、歌舞伎ではそれぞれに異なる味わいを持つ役者さんが鍛錬した身体表現で観客を魅了してくれます。そして素晴らしい選手がそろったときにそのスポーツ全体が盛り上がるように、歌舞伎界はいま活気に満ちているのです。 若者の街・渋谷にある二つの現代劇向けの劇場で歌舞伎が上演されたのは今年3月のこと。中村勘三郎さんを中心とする「コクーン歌舞伎」では「東海道四谷怪談(とうかいどうよつやかいだん)」を、串田和美さんによる古典的演出と新演出の2バージョンで上演したのに対し、市川染五郎さん主演の「PARCO歌舞伎」第1弾、「決闘!高田馬場(けっとう!たかだのばば)」は、三谷幸喜さん書き下ろしの新作。人気役者と現代劇の才能が組んだ二つの公演は、ともに連日大入りを記録しました。 歌舞伎の殿堂・歌舞伎座と、そのすぐそばにある新橋演舞場で同時に歌舞伎公演が行われたのは5月と11月。尾上菊五郎さんと病気療養から復帰した市川団十郎さんを中心とする公演が歌舞伎座で行われた5月、演舞場では中村吉右衛門さんが3作品で主演する奮闘公演が行われていました。大名跡を背負う第一線の役者さんがそれぞれの個性と持ち味を発揮し、見巧者をうならせる好演でした。 そして印象的だったのは11月。歌舞伎座は尾上菊五郎さんが屈指の大役・政岡を演じた「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」。これは片岡仁左衛門さんが憎々しい敵役と正義のヒーローの2役を演じ、中村富十郎さん演じる熱血漢と市川団十郎さん演じる不気味な悪とのコントラストが鮮やかな大舞台でした。そして同じ月の演舞場は、尾上松緑さん、菊五郎さん長男の尾上菊之助さん、団十郎さん長男の市川海老蔵さんらによる花形公演。歌舞伎界を牽引(けんいん)する世代が充実の芸を見せている歌舞伎座を横目に、演舞場では次代を担う若手が活力みなぎる清新な舞台を展開していたのです。 その現実を目の当たりにしたとき、ここに列挙できなかったものも含めて今年見たさまざまな公演が頭の中でぐるぐると駆けめぐり、「これから歌舞伎はとんでもなくおもしろくなる!」と実感したのでした。この11月は、秋田県の風情ある芝居小屋・康楽館で松本幸四郎さんが900回目となる「勧進帳」の弁慶を演じた月でもありました。 いま、数々の歌舞伎公演が多種多様な表情をたたえながら行われています。2007年の新春は歌舞伎座、国立劇場、大阪松竹座、浅草公会堂で歌舞伎を観ることができます。また、3月にはパリ・オペラ座で初の歌舞伎公演も実現。個性あふれる各世代の役者さんがそれぞれにひしめくいま現在の歌舞伎、ぜひ一度、生の感動を味わってみてはいかがでしょうか。 〈実践メモ〉各劇場の新春公演について簡単に紹介しましょう。 歌舞伎をよくご存知ない方でもおそらく名前は知っていると思われる人気役者、松本幸四郎さん、中村吉右衛門さん、坂東玉三郎さん、中村勘三郎さんらが顔を合わせるのは歌舞伎座。ドラマ性のある展開が海外でも評価の高い「俊寛(しゅんかん)」、人気演目「勧進帳(かんじんちょう)」「鏡獅子(かがみじし)」、独特の美意識に彩られた絢爛豪華な「金閣寺(きんかくじ)」など見応えたっぷりの作品が上演されます。全国各地の劇場での襲名披露公演を終えた勘三郎さんにとって1年ぶりの歌舞伎座出演となるのも話題です。 国立劇場は166年ぶりの復活となる「梅初春五十三駅驛(うめのはるごじゅうさんつぎ)」を上演。京都から江戸までの東海道中で起こる数々の出来事を綴った物語で、有名な歌舞伎作品のパロディーも随所に盛り込まれています。尾上菊五郎さん、中村時蔵さん、坂東三津五郎さん、尾上松緑さん、尾上菊之助さんらが出演します。 大阪松竹座は坂田藤十郎さんと市川団十郎さんの共演が注目を集めています。上方の藤十郎と江戸の団十郎、教科書にも載っている二大名跡が初めて同じ舞台に立つという歴史的意味合いを含んだ公演だからです。ふたりは「勧進帳」「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら) 九段目」で顔を合わせ、「勧進帳」には市川海老蔵さんも出演します。 浅草公会堂は恒例の「新春浅草歌舞伎」。コラムの第3回で紹介した片岡愛之助さん、映像の分野でも活躍する中村獅童さん、中村勘三郎さんの長男・勘太郎さん、次男・七之助さんらの若手が大役に挑みます。名作「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)」や抱腹絶倒の舞踊劇「身替座禅(みがわりざぜん)」が上演されます。 〈公演情報〉プロフィール
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