現在位置 : asahi.com > 文化芸能 > コラム > 朝日いつかは名人会ガイド・演目紹介 > 記事 ここから本文エリア

朝日いつかは名人会ガイド

朝日いつかは名人会とは
 東京・築地の浜離宮朝日ホール(小ホール)で06年4月から開催の「朝日いつかは名人会」は、落語界の未来を背負って立つ二つ目の若手を応援する会。年4回開催の予定で、毎回、若手真打ち1人がゲストになり、前座1人と二つ目2人を紹介します。落語をお楽しみいただくほか、彼らが本音を語り合うトークショーもあります。

演目紹介

第1回(06年4月27日)の演目

2006年05月13日

 注目の「朝日いつかは名人会」の第1回が4月27日夜、東京の浜離宮小ホールで開かれました。ブームのさなかにある落語の明日に輝くであろう二ツ目2人、古今亭菊朗、三遊亭歌彦、それをサポートするのは新進真打ちの先頭に立つ、しかも最近各賞を総なめにしている柳家喬太郎。前座はあと3日で二ツ目に昇進する三遊亭時松。役者そろいのスタートでした。

 演目は時松「狸の札(たぬきのさつ)」、歌彦「片棒(かたぼう)」、菊朗「湯屋番(ゆやばん)」。“3人トーク”を挟んで喬太郎「竹の水仙(たけのすいせん)」。トークの3人は喬太郎、菊朗、歌彦でした。

 「狸の札」は、子どもたちに捕まった子狸が、助けてくれた人の家へ恩返しに行き、いろいろなものに化けて役に立つけれど、結局失敗する、一連の「狸」という噺のひとつです。紙幣に化けて借金の返済に役立ちます。ここはひとまず成功の話。このあと博打のサイコロに化けて失敗するのが「狸の賽(たぬきのさい)」(たぬさいともいう)。また祝い魚の鯉に化けて危うく包丁でさばかれそうになる「狸の鯉(たぬきのこい)」や茶釜に化けて文福茶釜のようなことになる「狸の釜」などがあります。

 連作ではないので、全部を通してやることはありませんが、「札」と「賽」がよく演じられますし、「札」は他の三つの噺の導入部として付くことが多いので一番おなじみです。「狸の恩返しというお話で」と前置きされることが多いですが、そういう民話的な題はあまり落語にはなじみませんな。

 「片棒」はケチな父親が自分の店の後継者の選択に迷い、3人息子それぞれに仮想・父の葬儀計画を問うことで資質を測る皮肉な噺です。ぜいたくを極めた葬儀を語る1人目、お祭り騒ぎをしたがる2人目、一転して3人目は血も涙もないかのような緊縮施策。キーワード「片棒」は棺桶を担いで火葬場に運んだ時代の担ぎ相手のことで、今でも加勢することを“片棒を担ぐ”と言います。2人で物を担ぐ習慣はなくなりましたが、担ぎ仲間を“相棒”という言葉も残っていますね。

 「湯屋番」は道楽のしすぎで実家を勘当された若旦那が初めて就職した銭湯の番台でからっぽの女湯に客が来るのを待ち望みつつ、やがて妄想は滑稽な不倫劇へと果てしなく広がっていく――ばかばかしい人気落語。江戸東京では「湯屋」、上方では「風呂」が主流だそうですが、それほど厳密な区分けではありません。「オユウ」「ユウヤ」と伸びるのが普通ですが、「番」のような尾ひれがつくと「ユヤ」に縮むようです。日本語ってなかなか大変ですな。そういう言語の国だから世界で唯一落語みたいな芸能があるのでしょう。

 「竹の水仙」は名工・左甚五郎が竹で彫った水仙の花が開くというミラクル・ストーリー。そんな奇蹟をなしとげる天才的名人が無欲な文無しの旅人で、宿賃の代わりにそんな仕事をし、それが大名に買い上げられて宿の主人夫婦の待遇が掌を返したようになる。江戸時代らしいフィクションです。

 そんな古めかしい、科学的には否定されるような話で爆笑を生み出すのが、演じる人の創意ある演出と話術の腕前。20世紀半ばにはあまり演じられなかった「竹の水仙」がいま盛んに高座にかかるのは、ようやくこの噺の演出法が整ってきた証拠で、落語は世紀を超えた悠々たる奥の深さを持っています。柳家喬太郎演出は立川志の輔と並ぶ当代の双璧と言っていいと思います。

 3人トークは盛り上がりました。長く起伏に富む二ツ目生活の思いや夢を、だけどハナシカらしくジョークで飾って25分を超えるとっておきの話題満載でした。昔の落語家は人前で己を語ることを慎み、すべてを落語という作品に託して表現したものですが、いまは演者が自分を語ることが求められ、またみんなが内幕を知りたがる時代です。この“とっておきトークショー”が「朝日いつかは名人会」の目玉になりそう。先輩師匠から「大目玉」をもらいそうな話が飛び出すことを期待しようじゃありませんか。

京須 偕充(きょうす・ともみつ) 落語プロデューサー
 1942年、東京生まれ。ソニー・ミュージック(旧CBS・ソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の『圓生百席』や古今亭志ん朝の作品など、数多くの落語レコード、CDの制作を手がけてきた。
 有楽町で開かれている『朝日名人会』に加え、06年4月に浜離宮朝日ホールを舞台に始まる『朝日いつかは名人会』をプロデュースする。
 『落語博物誌』(弘文出版)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『古典落語CDの名盤』(光文社新書)など、落語に関する著作も多い。
ブックロゴ京須偕充さん関連書籍 >>

PR情報


この記事の関連情報


ここから広告です
ここから広告です
広告終わり

マイタウン(地域情報)

∧このページのトップに戻る
asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。 Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.