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落語って、こんなにおもしろい

2006年04月20日

落語家の階級 前座と二ツ目

 えー、落語界には見習い、前座、二ツ目、真打ちという、カースト制度がありまして――、と駆け出しの落語家が元気よく、うれしそうに噺(はなし)のスタートダッシュをすることがある。カーストは言い過ぎだよ。あれは固定した身分制度で、昇級の見込みはないのだから。しかし、それだけでは言い足りないとでも思うのか、真打ちに続けて「理事、副会長、会長、ご臨終」などとも言うが、これはむろん無関係のシステム&自然の摂理なのだから、あまり出来のいい冗談ではない。

 相撲界にも現在、序ノ口、序二段、三段目、幕下、十両、幕内の階級があり、さらに幕内に前頭、小結、関脇、大関、横綱があるのはご承知のとおり。さっきのように付け加えれば、年寄、理事、理事長などの他に帰国してモンゴルの大統領なんていう時代がまもなくやってくるかもしれない。

 相撲の階級も“カースト”とは違う。努力すれば、勝ち続ければ頂点を極められる。だめなら序ノ口のままサヨウナラ。相撲でも落語でも、階級・身分は、その世界の秩序を構成すると同時に個々の向上の目標になっている。

 歌舞伎界にはかつて下立役、中通り、相中、相中上分、名題下、名題という階級があったそうだが、現行は名題と名題以外ぐらいに単純化しているのではないか。これはかなりカーストに近く、名題になれるかどうかは、なかば約束されているらしい(このあたりの事情は『淀五郎』、『中村仲蔵』などの人情噺系の落語を聴くとよくわかる――と言いたいけれど、そこまで丁寧にやるゆとりは近頃なくなったようだ)。

 落語家は弟子入りするとすぐに見習いとなるが、名称がごく一般的なことからわかるように、これは正規の階級ではない。師匠の家に住み込んで、あるいは通って、または師匠のお供をして、イロハのイを身をもって体験し、本人が、こりゃとてもだめだ、やっていけないと思えば、また、師匠が、こいつ見込みはないなと思えば、はい、それまで。まだ名前ももらっていない落語家の卵X君は見習い初日にさかのぼってその存在を否定され、記録にすら残らない。

 晴れて前座の身分を頂いて、その日が正式の入門日となる。飼い犬に毛が生えた程度の名前がつけられ、落語家の組織団体に登録される。午前中は師匠宅で雑役にいそしみ、午後からは寄席に出勤して楽屋の切り盛りをする。自分の師匠のお供もするが、前座は落語界全体の最下級要員として、他の師匠にも尽くさなければならない。

 短ければ3年足らず、長ければ5年以上かかって前座をおえ、二ツ目に昇進する。その期間の長短は必ずしも本人の才能のバロメーターではない。前座の存在理由の第一は楽屋労務だから、後輩の入門が多い時期には余剰前座が年功序列でスピード昇進し、前座不足の状況になれば、いつまでも留年させられてしまう。

 二ツ目になると楽屋の雑役義務からは解放される。落語家らしい名前がつけられ、自分なりの出囃子曲で高座に上がることができるようになる。紋付を着られるのだから、ようやく一人前の落語家になれた――という実感がわいてくるだろう。

 二ツ目の期間は短くはない。故・古今亭志ん朝の4年半というのは例外中の例外で、短くても7年、長ければ15年ほどを過ごす。前座時代の定給(といっても超々薄給)は打ち切られ、プロとして一席幾らで稼ぐ生計は厳しいが、この期間をどう過ごすかで落語家としての将来が決まるといっていいだろう。しかも、どんなに上手な二ツ目であってもまだ独立した芸人としては認められず、「師匠」と呼ばれてはならないのである。

京須 偕充(きょうす・ともみつ) 落語プロデューサー
 1942年、東京生まれ。ソニー・ミュージック(旧CBS・ソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の『圓生百席』や古今亭志ん朝の作品など、数多くの落語レコード、CDの制作を手がけてきた。
 有楽町で開かれている『朝日名人会』に加え、06年4月に浜離宮朝日ホールを舞台に始まる『朝日いつかは名人会』をプロデュースする。
 『落語博物誌』(弘文出版)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『古典落語CDの名盤』(光文社新書)など、落語に関する著作も多い。
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