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落語って、こんなにおもしろい

2006年05月01日

落語家になりたければ――門を叩く

 前回は前座、二ツ目についてごく基本的なことを記しました。順序でいけば次が真打ちです。真打ちになれば「師匠」と呼ばれ、いわゆるトリをとる資格、また弟子をとれる身分も得られるけれど、入門以来十数年の道のりは楽なものではない――ってことなんですが、ここで改めて振り出しに戻ってみましょう。

 「落語界にはドラフト制度みたいなもの、あるんですか?」

 「なんですって? ドラッグストア?」

 「いいえ、プロ野球入団のためのドラフト制度ですよ。歌丸一門からの指名だとか、その順位だとか」

 「ああ、それでしたら何もありませんね。募集制度そのものがないんですか」

 「じゃ、タレントみたいにプロダクションがスカウト活動してる?」

 「してない。あのね、落語家がどうにか稼げるようになるまでには10年、20年とかかるんですよ。ましてプロダクションをもうけさせるほど稼ぐ可能性は10人に1人も持っちゃいないでしょう。よその業界をサンプルにして考えないこと。落語界は落語界なんだ。プロ野球や芸能プロより150年も先輩なんだから」

 と、話を断ち切ったつもりなのに、「それじゃ、大相撲のような採用試験があるんですか?」。

 なるほどね、「業界」の歴史は相撲のほうが少し古いからね。だけど、落語家になるのに身体検査は用がない。日本相撲協会がするように、落語協会、落語芸術協会、上方落語協会などが検定試験をやったなんて聞いたことがない。当面やる気もないでしょう。

 落語ブームのいまやれば案外いけるのかもしれないが、合否の基準なんて作りようもないだろうから、やはり実現の見込みはありませんな。芸能ってのは客観的な指数がない世界、テストにはなじみません。そこがまた、魅力の源泉でもあるってわけ。

 「じゃ、落語家になるには、どうすればいいんです?」

 お尋ねはごもっとも。むかしの人はハエや蚊の発生を“湧く”と言ったけど、どんな微生物だって物質の化合で誕生するわけはありませんから、落語家だって一定の法則――ま、手続きのもとに産声をあげるというわけです。そのあたりから、しばらくお話をしましょうか。

 まず第一に、落語家になりたいと思うこと。なりたいと思う人がいるってこと。これはまあ当然と言えば当然ですが、当然とは、それを貫いて、しかもある程度の結果が出たとき初めて大威張りで言えることじゃありませんか。なんとなく落語家になりたいなあと思ったことはあったけど、どうしたらいいのかわからなかったし、不安もあったからサラリーマンの道を選んだ――ってんじゃ、ほんの個人のクシャミ程度の意味しかありません。

 どうしても落語家になりたい人は門を叩くのです。“師匠”の門をね。つまり、真打ちの落語家の家を訪問して、自分の口から入門志願を述べ、入門の許しをこうのです。

 門を叩こうと思ったけど、その師匠の住まいはマンションだったので――、なんて気のきかないことを言っていては、落語の登場人物にはなれても落語家にはなれませんよ。

 いまだに「入門」というくらいだから、そして入門すれば門下、一門の門弟、門人といわれるのだから、門はなくても叩くのです。叩くと言ったって“バールのようなもの”でやってはいけません。

 叩いた、会えた。はい、では明日から通っておいで――、ってことにはまずならない。師匠は弟子をとるのが商売じゃないのです。

京須 偕充(きょうす・ともみつ) 落語プロデューサー
 1942年、東京生まれ。ソニー・ミュージック(旧CBS・ソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の『圓生百席』や古今亭志ん朝の作品など、数多くの落語レコード、CDの制作を手がけてきた。
 有楽町で開かれている『朝日名人会』に加え、06年4月に浜離宮朝日ホールを舞台に始まる『朝日いつかは名人会』をプロデュースする。
 『落語博物誌』(弘文出版)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『古典落語CDの名盤』(光文社新書)など、落語に関する著作も多い。
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